散日拾遺

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ふるさとの海はよきかな

2014-10-29 11:43:03 | 日記

2014年10月28日(火)

 田舎へ来て庭へも出ず、週末の面接授業の資料をこしらえ、大急ぎで送る。これができるのを便利というか、これを強いられるのを不便と見るか。

 「FAX導入は事実上の労働強化ですね。昔なら、本社から書類催促の電話がかかってきたら、『今朝送りました』と答えておいてから書類を作ったもんです。今は『できてるなら、すぐFAXで送れ』と言われちゃいますから。」

 1981年頃の家庭教師先で、某一流企業に勤めるその家のお父さんから聞いた話である。電話がプロペラ機、FAXがジェット機なら、メールやネットは人工衛星、いっそ「どこでもドア」に相当するか。その分、労働のイメージは減速させないと、生身の人間が壊れるに決まっている。サイボーグじゃないんだからね。

 

 午後、屋敷の西北隅の竹林に挑み、10本ばかりも伐ったところで「もう行くぞ」と父から声。帰郷前の恒例の湯治に権現温泉へ。名前の由来は判然としない。全国に知られた道後・奥道後にあやかって、前道後などと呼んだりする地元の小温泉である。やや硬い弱アルカリ泉で、石鹸の泡立ちが悪いが体には優しい、ほどよい加減である。

 そこから、これも恒例の海沿いの海鮮料理屋へ。料理はどうということもないけれど、窓の下には浜辺、その向こうに世界一穏やかな瀬戸の海と島山を望んで、眺めは天下一品である。駐車場に降り立った瞬間、橙の飴玉が島の端すれすれまで降りてきた。ドアをくぐって席に案内された時には、既にすっかり沈み、紫がかった残照が空を染めている。

 海はゆっくりとうねり、鳥が一羽、二羽、視野を横切って滑空する。

 

 ふるさとの海に向かひて言ふことなし

 ふるさとの海はよきかな