散日拾遺

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カウンセリングオフィスにて

2018-06-13 18:02:10 | 日記

2018年6月12日(火)

 放送教材のロケで、カウンセリングオフィスSARAを取材。

 カウンセリング機関を開くのに届け出は不要だそうで、正確な実態はわからないがかなりの勢いで急増中という。もちろんユーザーの着実な増加が前提にあるわけだが、カウンセリングを活用することへの心理的な抵抗が減ってきたのが一因だろうと、Y君・Aさんの一致した印象。それにはスクールカウンセラーという制度が一役買っているらしい。

 旧文部省のスクールカウンセラー事業が始まったのは1995年、開始年度は全国154校が対象だった。2001年からは文科省のもとで全公立中学校、2008年からは全公立学校への配置・派遣が計画的に進められ、私立学校でも臨床心理士資格認定協会などの主導する私学スクールカウンセラー支援事業が2010年から実施されている。この制度の普及につれ、カウンセラーというものが身近にいる状況を当たり前に受け止め、必要時には自然体で来談し活用する空気が他ならぬ生徒らに浸透した。その世代が今青年期から壮年期にさしかかりつつある。

 Y君らの手づくり統計で最多を占める来談者層は20代から40代、スクールカウンセラーを知る世代が登場してきたというのがK君らの解釈である。学校環境の変化が社会環境全体に影響を及ぼす好例か。だから学校教育は大事なのだ。プラスもマイナスも、何乗かに増強される。

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 取材は粛々と進み、仕上げにオフイス内の様子を撮影する段取り。箱庭療法の道具一式が室内に登場すると、男女5人の撮影スタッフが一様に歓声を上げた。

 触っていいですよ、フィギュアを好きなように並べてみて、とY君の許可が下りるが早いか、引かれるように集まってくる。

 一番乗りはカメラさん、宇宙ロケットをいそいそと持ち出した。「発射台、砂山が要るでしょう」とサブディレクターが砂をかき寄せる。砂の下から現れた青い水面に音声の女性が船を置き、助手の若者が橋を架ける。この彼は2時間ほどの収録作業の間みごとに存在を消していたのに、今は表情を輝かせて冗談まで口にする。「抽象的な感じで」とガラス玉を点在させるもの、「緑がない、緑が要ります」と木々を刺していくもの、5人それぞれ自分の置きたいものを置きながら何となく配慮しあっている。ロケットに這い寄る巨大な黒蜘蛛、「ハリウッド風に」GとMの看板、「Gが上下逆じゃないですか」と助手君。

 箱庭療法で子供たちに起きるはずの/起きてほしい変化が、制作スタッフに瞬時に起きた。「仲良く遊んでますね」とY君愉快そうである。

(カウンセリングオフィスSARAの許可を得て掲載)

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 帰り際、土曜の晩の新幹線内の事件に話が及んだ。僕は出かけていて見なかったが、その場に居合わせた人々にかなり踏み込んだインタビューがあり、テレビで流されたようである。Y君が顔を曇らせ、制作スタッフらが同調した。

 「マズいです、配慮がなさ過ぎます。」

 凶行前後の様子を執拗に訊いたりすれば、外傷的な記憶の心理的効果を増強する恐れがある。災害現場での援助でも、のっけから踏み込み過ぎないことが重要とされる。メディアのもつ力の強さと大きさ、それゆえのリスクをもう少し自覚してほしい。あるいはもう少し勉強してほしい。

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沙羅双樹 (気ままな写真帖 https://gonbe0526.exblog.jp/18492062/ より拝借)

 SARAの由来は沙羅双樹。それでふと思い出したが、

「多摩川にさらす手作りさらさらに何そこの児のここだかなしき」
(多麻河伯尓 左良須弖豆久利 左良左良尓 奈仁曾許能兒乃 己許太可奈之伎 (万葉集 巻14・3373))

 これにちなんで愛嬢を「さら」と名づけたお母さんがあった。そろそろ20代の半ばに達していることだろう。

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