散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
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ギンリョウソウ

2020-05-14 12:15:59 | 日記
2020年5月14日(木)

 竜田川の桜から一転、こちらは何?

 「山桜もおわり、こちらは今新緑が一番美しい時季です。田ではカエルが鳴き、夜は不思議にもコオロギなど秋の虫まで鳴きます。近くの森に銀霊草が咲いていたので、少し失敬してきました。木陰の目立たない所に咲く、その姿と生き方に何かを考えさせられました。コロナにはくれぐれもお気を付けください。」
(2020年4月24日付)

 日向は日南にお住まいの日高春昭先生から、田園の颯々たる風を頬に感じさせるお便り。富士山に月見草ならば、阿蘇山には銀霊草か。
 それにしてもいったい何者?寄生植物かランの仲間か、何をもってきても腑には落ちず、調べてみればこれがツツジの仲間だという。

 ギンリョウソウ(銀竜草、Monotropastrum humile)
 「ツツジ科ギンリョウソウ属の多年草。腐生植物としてはもっとも有名なものの一つ。別名ユウレイタケ」(Wikipedia、以下同じ)
 「古い新エングラー体系ではイチヤクソウ科に、クロンキスト体系ではシャクジョウソウ科に分類されていた」とあるから、誰しも分類には悩んだのである。それにしてもツツジですか。陰もあれば陽もあり、ツツジもいろいろだ。


 ギンリョウソウのプロフィルが、いろいろと面白い。
 
 「森林の林床に生え、周囲の樹木と外菌根を形成して共生する菌類とモノトロポイド菌根を形成し、そこから栄養を得て生活する。つまり、直接的には菌類に寄生し、間接的には菌類と共生する樹木が光合成により作り出している有機物を、菌経由で得て生活している。古くは周囲の腐葉土から栄養を得ていると思われていて、そのように書いてある著作も多いが、腐葉土から有機物を得る能力はない。」
 寄生植物には違いないわけだが、その寄生のループがずいぶん長く伸びている。

 「日本全土に分布し、山地のやや湿り気のある場所に生育する。世界では、千島列島、樺太、朝鮮半島、中国、台湾、インドシナ、ビルマ、ヒマラヤに広く分布する。
針葉樹林や広葉樹林のしめった腐植に生える。ベニタケ属、チチタケ属の数多くの種に寄生し、間接的につながる植物も多種類にわたる。」
 
 「寄生」という言葉には、他者の努力の成果を一方的に掠めとる、依存性や非生産生への非難が込められることが多い。 parasite single という言葉なども、創案者の意と違ってこの点が強調され、物議やら厄介やらをさんざん醸した。しかし「共生/片利共生/寄生」というスペクトラムを念頭に置くなら、ギンリョウソウと菌類との関係にも別の側面があるのかもしれず、生態系全体のバランスを考えればなおのこと、さらにこれほど多くの植物と直接間接につながるのだとすれば、この種族には何か大事な役割が託されているのではないかと、そんな気がして仕方がない。「ハタラカナイアリ」の例なども思い出されたりする。

 ギンリョウソウは銀竜草と書くのが通例のようだが、日高先生が銀霊草と記しておられるのが、いかにも似つかわしい。ギンリョウソウに似合うのと、日高先生に似合うのと、二重の意味の似つかわしさである。

Ω
 


朋有リ、遠方ヨリ来信ス

2020-05-14 11:59:27 | 日記
2020年5月17日(水)
 子曰、学而時習之、不亦説乎。有朋自遠方来、不亦楽乎。人不知而不慍、不亦君子乎。 
論語・学而
 
 コロナ騒動は忌まわしいものながら、それに言寄せて遠方の友人から便りがあったりするのは嬉しいことである。こういうことで友人を(再)発見するといったほうが、たぶん正しい。
A friend in need is a friend indeed.

***

 ご無沙汰しております。奈良県のUです。
 新型コロナ、様々なことで大変かと存じます。こちらでも毎日、関東エリアのニュースが流れますし、兄が東京にいますので、緊張しながらニュースを見ております。石丸先生の職場でも、かなりの影響が出ているのではないでしょうか。
 奈良県は1月末に全国でも早い感染がでましたので、2月初めに全てのイベントが中止になりました。

 本当に辛かったです。

 私は4月10日から在宅勤務になりました。大阪府の緊急事態宣言を受けて、7割の社員を在宅勤務にシフトするという社命が出され、前日の木曜日はPCのセキュリティー設定や各種届出でバタバタしていました。
 私の業務の性質上、在宅は無理なので隔日出勤にしたのですが、翌金曜朝の緊急経営会議で、あらためて「9割の社員を在宅勤務にする」との大号令がかかりました。直前の大阪府の罹患者激増を受けての決断だと思います。
 業務が途中でも、アポがあっても、在宅でできる仕事が無く、寝ていても良いので、どんなことがあっても、とにかく出勤するな(電車に乗るな)という会社方針です。我々のような製造販売メーカーが9割出勤しないのは殆ど自殺行為で、業績が有り得ないほど落ち込むことは必須です。
 それでも、約2000人が勤務する本社で1800人が電車に乗らないというのは、まさに会社の社会的責任を遂行するものであり、世の中の罹患リスク減少に少しでも貢献できるだろうと思います。(出勤する1割は、この時期に限って特別に車通勤を認めています。)

 幸い我々の月給は、たぶん保障されると思います。ボーナスは期待しませんが、国中の困難を思えば、たいへん恵まれていることは疑いありません。
 ただ誤解を恐れず申しあげるならば、こうしたリスクに備えるため、37年間も大きな組織の中で自分の意思を殺し、人生のチャレンジを諦めて「駒」に徹し、血を吐き抗うつ薬を飲み続けながら、家族を守るために必死で耐えてきた対価だとも思います。(この生き方を他人に勧めようとは思わないのも本音ですが。)
 とりわけ私は30代で会社更生法による倒産を経験し、幸い今の会社が救ってくれましたけれども、人生設計をここで大きく変えることを余儀なくされました。

 今はとにかく我慢して、大切な人々を守ることに徹します。その間、私の仲間、友人の医療者の皆さんが、決死の思いでリスクと隣り合わせで頑張ってくださっています。私たち非医療者である一般市民にできることは限られていますが、私自身は出勤しないことにより99.9%の接触削減を達成できます。せめてそこは歯を食いしばって守ります。
 しんどい、本当にしんどいですね。涙が出ます。
 でもとにかく頑張ります。
 頑張った成果は必ず出ますよね。

 晴れて笑顔で再会できることを楽しみにしています。お忙しく、緊張の毎日かと存じます。せめて少しでも休まれることを祈っています。

 最後になりましたが、添付の写真は最寄りのバス停に向かう通勤路から見える風景です。万葉のふるさと「竜田川」が流れている贅沢な通勤路で、10日ほど前に撮影しました。
 今年の桜は例年と違い、純粋に「花」として愛でることができたかなあと、ふと感じました。
(2020年4月18日(土)来信)

ちはやぶる神代もきかず竜田川からくれなゐに水くくるとは 
在原業平

 在五中将の歌の通り、古来紅葉の名所である。その季節には心穏やかに、あらためてお便りいただけることを切に祈る。

Ω