散日拾遺

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7時のニュースと翌朝のオマケ

2025-01-22 19:02:00 | 日記
2025年1月23日(木)
 夜7時にTVでニュースを見る習慣は、たぶん一生やめられない。オールドメディアに飼い慣らされた昭和の残党ということになるのかな。それでもこちらは、少なくとも報道の真偽について疑うことは忘れずにいる。
 長期政権を終えようとする佐藤栄作氏が、記者会見の席上で珍しく感情をあらわにして新聞記者全員の退席を求め、「TVは真実を伝えるから」とカメラに向かって笑顔を向けたことを記憶している。高校一年の夏頃だったか、「それは違うだろ」と思うぐらいの分別が芽生えつつあった。
 SNSを駆使するのは結構なことだが、声が大きく再生回数が多いから正しいのだと思い込むなら、昭和の愚かさのニューバージョンでしかない。それもこれも使うものの了見次第である。

 昨夜のニュースから二件。
 その1:
 イチロー氏が米野球殿堂入り。
 満票に一票足りなかったそうで、「満票でなかったことは良かった」と語ったのはこの人らしいが、誰がどんな理由で不賛成だったのかは知りたいところである。「全員一致の死刑判決は無効」という話が『日本人とユダヤ人』の中に出てきたっけ。
 「自分よりも才能のある選手は大勢いた。自分の能力を生かす能力は、また別にある。」
 これは至言、まったく同感。忸怩たる思いもあるが、ただ「生かす」にもいろんな生かし方があるのが難しいところで。
 
 その2:
 トランプ氏が教会に出席。
 会衆席の作りや侍者の動きなどから一瞬カトリック教会かと思ったが、実際は聖公会、つまりイギリス国教会系のプロテスタントである。ワシントン大聖堂の礼拝に出席するのが米大統領就任後の伝統行事なのだった。
 その講壇から女性の説教者が「少数者に慈悲を」と訴えたのに目を見張った。以下、NYタイムズから。

 Bishop Mariann Edgar Budde was nearing the end of her sermon for the inaugural prayer service on Tuesday when she took a breath and looked directly at President Trump.
 “I ask you to have mercy upon the people in our country who are scared now,” said Bishop Budde, the leader of the Episcopal Diocese of Washington. “There are gay, lesbian and transgender children in Democratic, Republican and independent families, some who fear for their lives.”

 会衆席のトランプ氏は口をひん曲げて横を向いていたが、果たしてその後、SNSで反転攻勢に出た。

 トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、バディ主教の名前を出さずに「21日朝に礼拝で話をした主教とやらは急進左派のトランプ嫌いだ」と主張。
 「彼女は非常に無礼なやり方で自分の教会を政治の世界に引き込んだ。陰険な口調で、説得力も知性も感じられなかった」とこき下ろした。
 さらに、「彼女の不適切な発言は別として、礼拝自体も非常に退屈で、つまらないものだった。彼女はあの仕事に向いてない! 彼女と教会は国民に謝罪するべきだ!」と非難した。

 これからしばらく主教も聖公会もたいへんな思いをすることだろう。それを承知で直言する勇気に感服する。
 「政治に宗教が容喙するのか」というのはこの場合あたらない。主教の言葉の中にあるように、民主党支持者・共和党支持者・どちらでもない者の別を問わず、多くの家族と子どもたちに命の危険すら感じさせていることを、改めてほしいと懇願したのである。
 日本人視聴者の多くはプロテスタントとカトリックの区別もあやふやだから、しばしば「教会」を盾に使うトランプ氏とのあいだで何が起きているか、解説が必要であろう。トランプ氏を後押しするのは「福音派」と呼ばれるプロテスタントの非主流派で、これはもはや聖書の解く「福音」とはほぼ無縁の過激な政治勢力になっているが、これ以上はおっかないので書かないでおく。
 ただ、アメリカもアメリカ人も健在であることを、画面の中に見たとだけ。
***
 一杯やって寝て目が覚める起き抜けに、右のふくらはぎがつった。中学に上がって以来、ときどきあることだが、ここ数年激しさが増している。「若いわねぇ」と家人はフォローしてくれるが、逆に筋肉がスカスカになって起きる現象ではあるまいか。
 手でさすろうと脚を曲げる動作で、痛みがまた二倍になり、ジタバタしながら思わず叫んだ。
 「トランプの悪党め!」
 これは見かけほどの他意はない。チェーホフの短編に、ロシアの海水浴場の水が冷たくて「ドイツ人め!」と悪態つく男が出てくるのがおかしくて、ときどき真似してみるのである。
 どの作品のどこだったか、心当たりを探してみるが見つからない。ただ、チェーホフに限らずロシアの小説の中では、良きにつけ悪しきにつけドイツ人がシンボリックな表象として用いられる。たとえば以下のごとくに。

 (ピョートル・イグナーチエヴィチの)もう一つの特徴は、科学の無謬性への、そして主としてドイツ人の書くすべてのことへの狂信である。
チェーホフ/小笠原豊樹『退屈な話』新潮文庫版 P.20
 
 …サモイレンコは言った。
 「…きみは偉い学者で、優秀な人間で、祖国の誇りだが、惜しいかな、ドイツ人に毒された。そう、ドイツ人!ドイツ人!」
 サモイレンコは医学を学んだデルプトの町を去って以来、ドイツ人には滅多に逢わず、ドイツ語の本は一冊も読んだことがなかったが、この軍医の意見によれば、政治上、学問上の悪のすべてはドイツ人のせいなのである。一体どうしてこんな意見になったのかは自分でもよく分からなかったが、とにかくこの考えを固く信じていた。
同上『決闘』 P.151-2

 それにしても、パリ協定離脱は伝えられて覚悟していたけれど、WHO離脱の大統領令には驚いた。対岸の火事ではおさまらない四年間が、既に始まっている。

Ω

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