散日拾遺

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国民不栄誉賞

2013-05-06 12:02:51 | 日記

松井が投げ、長嶋が振り、原が捕る。

国民栄誉賞授賞式を見ながら考えた。

いっそ、国民不栄誉賞というものを創設したらどうだろう。

 

受賞規定は国民栄誉賞に準ずるとして

 

 「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったものについて、その栄誉を讃えること」

 

これが国民栄誉賞だから

 

「広く国民を落胆させ、社会に不安と絶望を与えることに顕著な業績があったものについて、その不名誉を記念すること」

 

こんな感じかな。

 

さしあたりの有力候補者は、都知事、あなたですよ。

五輪招致をめぐっての「失言」は、いくら何でもひどすぎたでしょう。

 

ネット情報によれば・・・

氏は、インタビューに対し、「ベストの開催地はどこだと思いますか?」と思わせぶりな質問をした。そして、立候補したトルコのイスタンブールやスペインのマドリードを挙げ、「インフラや洗練された競技施設がまだ整っていない」と指摘した。そして、トルコを念頭に置いてか、「イスラム諸国が共有しているのはアラーの神だけで、お互いにケンカばかりしている。これらの国には階級というものがある」と述べた。さらに、トルコの人々が長生きしたければ、日本のような文化を創るべきで、若者が多いだけではあまり意味がないとまで話した。

 

どんな時にも伝聞情報を鵜呑みにすべきではないし、人の名誉がかかっているときには特にそうだ。

ここは慎重に、氏がこの通り発言したのは事実であるという前提のもとで。

これはあんまりだ。

 

NY タイムズは、

「他都市の批判がIOCの行動規範に抵触する疑いがある」

と書いたそうだが、IOCの行動規範があろうがなかろうが、ライバルを悪どく非難することはスポーツマン精神に逆行するし、オリンピック招致メッセージとして大いに逆効果であることは疑いを容れない。

落選したければ、こうするとよいということを、氏はやってくれちゃったのである。

 

だけど僕の言いたいのはそのことではなくて。

オリンピック招致が実現するかどうかではなくて。

 

オリンピック招致の成否は、個人的にはどうでもよい。

功罪ともにあるだろうし、オリンピック開催は多くの国や地域が広く関わるのがふさわしい。

何度も招致せずとも、非ヨーロッパ地域で初のオリンピックを、敗戦から20年経たぬうちに成功裏に成し遂げた1964年の日本の栄誉は、それだけで誇るに十分である。

 

そうではなくてだな。

僕が残念でならないのは、この愚かな発言がトルコという国の人々の心証をひどく害しただろうということだ。

 

トルコはたいへん親日的な国だと聞いたことがある。

データを見るまでもなく、それはそうに違いないと確信されるのは、これも歴史ゆえ。

日露戦争のことを考えれば、そうでないはずがないと思うのだ。

 

「瀕死の病人」と渾名された19世紀の老大国オスマン・トルコを、当時のロシアは執拗に圧迫し続けた。クリミア戦争や露土戦争はその象徴的な事件で、トルコにとってロシアは恐るべき脅威だった。

そのロシアを日本が破った。

トルコ人の内に、歓喜がなかったはずがない。

 

有色人種として初めて白人国家に勝ったこと、それにも増して、あの憎いロシアに地球の反対側で一矢も二矢も報いてくれたこと、これがトルコとトルコ人の、日本と日本人に対する認識の初めであったはずだ。

 

大急ぎで註をつける。

 

だから日露戦争が義戦だったとか、戦争も悪いもんじゃないとか、そんなことを言っているのではないよ。

福沢の言うとおり、「立国は私」なんだからね。

二つのエゴイズムが衝突し、そしてこの時は幸いにも、そして辛くも、日本が薄氷の勝利をおさめた。

それだけだ。

 

ついでにもうひとつ、ロシアとトルコとどちらが正しかったかという問題でもない。

オスマン・トルコに支配されてきた諸地域にとっては、トルコの敗北こそが福音だっただろう。

そうじゃないのだ。

 

善悪はさておき、事実として戦争が起きた。

それが終結したとき、遠い彼方の国の人々の内に、我ら日本人に対する親愛の念が生じた。

これこそが、「不幸中の幸い」として大事に育てるべきものではないか。

そしてこれこそが、8万5千人におよぶ戦没者とこれに倍する負傷者が後世に遺してくれた、貴重な財産ではないか。

 

英霊に報いるとは、この種の無形の財産をたいせつに育てることの内にあるはずだ。

たいせつに育てるどころか、台無しにしかねない愚かな発言を、彼は為した。

友情を育てるはおろか、他国民を公然と侮辱し怒らせる言葉を吐き、しかもそのことに気づいていない。(あるいは気づかぬふりをしている。)

「陳謝」の後も、あいかわらず五輪招致の成否という観点からしか問題を見ていないことが、メディアから伝わってくる。

 

ええ、有力候補ですよ、都知事閣下。

それは私たちの功績でもありますけれどね。

「すべての国は、それに相応しい政府を持つ」(ド・メーストルの書簡)のだそうですから。

 

*****

 

【蛇足】

ウラル・アルタイ語族に属する顔ぶれと言えば・・・

日本、韓国・朝鮮、モンゴル、そしてトルコ

寿命が200年あるのなら、トルコ語を勉強してみたいんだけどな。

でも現状では、ロシア語が先だな。

オルハン・パムクは面白い作家なのに、もう少しマシな翻訳者はいないのかね。

ノーベル賞作家の邦訳が、まるで日本語になってないんですよ!

 

 


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