カヤックで海に出ると、
風や波、潮騒の音のトーン、香り、湿度など自然の息吹と、
自分自身の五感とがシンクロして、
研ぎ澄まされた感覚になってくるといつも言っていますが、
その感覚に包まれたあと聴くと、いつにも増して、
一段と素晴らしく感じる音楽ってのもまた、あります。
そういう観点で最近はまっているのは、これ、
ニューヨークの気鋭のジャズヴォーカル、
グレッチェン・パーラトの音楽。
彼女の音楽のよさは、一聴してとてもクール、
ある種冷たいくらいの透明感がありながら、
その実、とても情感が豊かで、聞いていると心が温かくなってくる。
そういう微細なバランスにあるわけですが、
これって冬の海を漕ぎ出でる感じととてもよく似ています。
特に晴れて風のない日の海は、ピーンと冷たくはりつめた空気のなか、
海水も海景も透明な美しさを解き放ち、
その現場にいる者の目や耳や毛穴や、そこから繋がる心を洗ってくれる。
そして南を通る太陽光線も相まって、ほっこりあったかい気分になってきます。
ああ、なんて美しいのだろう、という喜び。
そういう感覚とシンクロする音楽。
デスクワークなどしているときにBGMとして流していても、
全然邪魔にならない上に、
じっくり聞き入ると、「すごい音楽性の高い、洗練されたことやってるな」
と、色んな発見があります。
で、さらに冬の海に出て、冬の海に五感のチューンを合わせた後に聴くと、
ビンビン来るものがあるのです。
彼女の声のコントロール、
メンバー全員のテクニックのすばらしさはもちろん、
情感や音楽性の高さ、プラス、高い審美眼。
これまで多種多様な音楽を聴き、咀嚼した上で作り上げた、
新しいジャズだということがよくわかって面白い。
形態は正統的なジャズだけど、
ロック、ブルース、レゲエ、ラテン、ボサノヴァ、ヒップホップ・・・、
いわゆる「出尽くした」と言われるポップミュージックの世界ですが、
それらたくさんの聴きこんできた上で、
あえて誇りをもってやってるジャズという感じがするのです。
別に他の音楽的要素を押し出してるということではなく、
他のジャンルの音楽と比べた、
ジャズの長所と短所をよく理解した上でやっている。
一音一音、そういう批評眼とか、センス、審美眼、
志とか、ヴィジョンとかが込められている。そして何より、
ジャズや音楽に対する愛が込められている。
そういうことも海からあがってじっくり聴くと、
よく見えてくる。
きっと、海と音楽は等しい。