ほら、友達からもう1枚金もらったからあげるよ。
そう言われて目の前に金紙が差し出されたのは、その日の午後だったでしょうか。
気が付くとえーちゃんにも笑顔が戻っていました。
いったい何があったのでしょう?幼い私に分かるはずもありません。
思いがけず戻って来た金紙、あれ、これって本当に真新しい金紙だ!
手の平ににそっと取り上げてよくよく見ても、真っ新な折一つない金紙です。眩しい黄金の光を全面に放っています。
友達から貰ったとは言っていたけれど、女の子から返されたのをまた持って来ただけなのかも、と私は一瞬思ったのですが、これは見れば見るほど輝きが増すような非の打ち所がない完璧な折り紙でした。
さっきの紙じゃ無い、私は思わずごくんと唾を吞み込むと、ぽかんとしてえーちゃんの顔を見るのでした。
「気に入った、じゃあね。」
嬉しいそうな私を後に、笑顔のえーちゃんは元来た方へ戻って行ってしまいました。
あれれ、私ってフラれたんじゃないのかな?
どうも事情がすぐにはよく呑み込めません。戻って来た、もとい、新しく来た金紙を見て考えてみると、どうやらえーちゃんはまだ私に好意を持っていてくれているようです。
それでは、と、私には気になることができました。
さっき折り紙が私の手から抜き取られた時、私は一瞬その折り紙を放したくないと思いました。それは折り紙ではなくえーちゃんであったのかもしれません。
手放したくない、その思いが一瞬指にこもったのか親指の爪が金紙にかかり、金紙に小さなくの字の折を付けたようでした。私はハッとしたのですが、えーちゃんは気付かなかったようでそのまま金紙を持って行ってしまったのです。
『確かに折が付いていたようだった。』
そう思うと、その折は私の執着心、嫉妬、物欲、…とにかく一瞬自分に現れた醜い物、悪い心であったように思われてなりません。
再び金紙を手に入れてみると、私は紙に残っているだろう「くの字」が気になって仕様がありません。
この先、後悔の基になるくの字、自己嫌悪の固まりの象徴になるだろうくの字、私は元の金紙を取り戻したくて仕様がなくなりました。
見る人がみれば気付くだろうと考えると、あの金紙を人に見られることは私の恥を見られるようなものだと、恥ずかしくて恥ずかしくて堪らなくなるのでした。
そこで私は新しい金紙を手にえーちゃんを追うと事の次第を話しました。
「あの金紙に折を付けてしまったから、この綺麗な金紙と交換して欲しい。傷がついた金紙を誰かに上げると悪いから」
と。
今更のような感じでしたが、綺麗な紙ならその方が私が持っているのにはいいだろう、と言うえーちゃんに、無理無理に前の紙の方を私の手元に戻して欲しいと頼み込むのでした。
「あっちの紙の方がいいの、元々のえーちゃんの金紙でしょ。」
とまで言って食い下がるのでした。
あのくの字の折に隠された恥ずかしい私の心を、どんなことで誰かに見透かされたらどうしましょう。
そんな事ばかり考えるのでした。