もう夏休みも終わる時期ですが、入試の後の入学式、そしてその後に続く夏休みは開放感に溢れていました。その自由を満喫しようと私は高校時代の友人と海へやって来ました。昨年までのスクール水着も卒業です。お互いに可愛い水着の見せ合いっこをして大はしゃぎ、うきうき気分でした。
友人も私も泳ぎは達者な方でしたから、飛込み台と海水浴場を仕切ってある浮きの間を往復して泳いでいました。
飛込み台に登り、飛び込んで浮きまで泳ぎ、浮きを繋ぐロープに座って一休み、また飛込み台まで泳いで戻る。その繰り返しを何往復かした頃、飛込み台に戻って来た時です、そこに1人の男の人が待っていました。
20代後半位の年齢に見え、1人で来ている感じを受けました。
「君達、後ろの男の子かな、2人の連れなの?、一緒に来てるの?」
言われて振り返ると確かに男性2人が海面にいます。私達が見るとびっくりしたようで、1人は顔を隠すように後ろに向けました。
いえ、連れじゃ無い、私達は2人で来ていますと答えると、さっきからずっと君達の後を追いかけて泳いでいるよ、あの2人。との事でした。
一緒に泳いだらとまで言われるのです。
私と友人は思わず顔を見合わせました。
実は前年、私達は友人6人で此処の海へ泳ぎに来ました。皆がスクール水着の中で2人だけ普通の婦人用水着を着ている者がいました。その1人に社会人らしい年配の男性が声を掛けてきて、しつこく電話番号も聞いていました。
世慣れない友人は電話番号を教えてしまい、その後かなりしつこく電話が有り困ったという事でした。家の人にも叱られたそうで、散々だったと通学電車の中でこぼしていました。
それで、今年海に来る前に今日誘った友人(昨年海に来た6人の中の1人、スクール水着派だった人)と昨年みたいな事が私達にもあったならきっぱり断ろうねと言い合わせしてありました。電話番号を教えるなんてもちろん論外です。
飛び込み台にいた男の人の話が本当なのかどうか、私達が構われているだけなのかもしれません。確かに今私達の後ろの身近な海面には彼ら2人だけでしたが、今までそうであったかは私には分かりませんでした。
気が付いていたか友人に尋ねると、気が付かなかったという返事です。彼らが飛び込み台についたので、
「行こう」
私は友人に言って飛込み台を離れます。浮きへ向かって泳ぐのです。彼らが付いてくれば男性の言った話は本当なのでしょう。
浮きの所まで来て振り返ると、やはり彼ら2人は付いて来ます。飛込み台に戻ると飛び込み台の所へ彼等もついて来るのです。
改めて観察すると、私達とそう変わらない年代のようです。連れに間違えられる訳ねと話し合います。彼らは昨年みたいな社会人の人達じゃないねとも言い合い、私達はコックリ頷き合います。
今度は、友人が行こうと言って先に泳ぎ出します。結構早いスピードです。私も飛込み台を離れます。かなり短時間で浮きの所まで来ました。
いつものように浮きのロープに座って一休み、早めに泳ぎ着いた向こうも少し離れたところに座っているのが見えます。彼らも泳ぎが達者なんですね、気が付きました。
ハイペースで泳いで疲れてぼーっとしていたせいか、私が気付かない間に彼らの一人が側に泳いできて声を掛けました。
「僕、(地元名)大学の経済学部の2年生ですが、一緒に泳ぎませんか?」
思わず顔が赤くなってしまいます。友人を見るとやはり顔が赤いです。2人顔を見合わせて困ったねです。
変とも言えない人達のようですが、どうなんでしょうか。(地元名)大学の人なんて言うと此処では学生の顔のような存在です。はっきり断わりきれ無くて困ったのです。
どうしようか、ヒソヒソ相談です。社会人じゃないし学生同士なので良いようにも見えます。地元の国立大学生、断ると失礼な気がします。でも相手の言葉を鵜吞みにしてよいかどうかも疑問です。
迷っていると友人が言いました。『今日だけの付き合いにしておこう。』成る程そういう手があるのね、私達の対応が決まりました。
うんと互いに頷きます。話しかけてきた彼にもうんとコックリです。今日だけだけどと。