彼は最後に蛍さんの真っ赤になった顔を面白そうに笑って見詰めると、黙って彼女の傍を離れて、元の投石場所に戻り屈み込みました。彼は極めて冷静に自分の穴までの道筋を計ってみるのでした。その後もあれこれとゲームの盤面に当たる地面を眺めていましたが、ふいと立ち上がると
「さあ、やろうぜ。」
続きをしようと、次の順の茜さんににこやかに投石を促しました。
蛍さんの方は全くあらぬ疑いを掛けられたという態で、蜻蛉君が去った後は窪みの側で悔し涙に暮れていました。そんな彼女に蜻蛉君は邪魔だから退けよ、遊べないだろうと指図までするのです、蛍さんはすっかり気落ちしてしまいました。
『穴なんか掘っていないのに、蜻蛉君は私が掘ったと思っているんだ。』
そう思うと彼女はすっかり元気を失くしてしまいました。抗議の言葉さえもう頭には浮かんで来ないのでした。彼女は悔しいというより悲しい気持ちで胸が一杯でした。細々と涙が溢れ出て来ます。彼女は遊び仲間に信用されなかった事が無念で残念でなりませんでした。それが彼女には酷く悲しい事なのでした。
自分は誤解される様な事をする子だと思われている、今までそんな事を思われるような事をしてきた事が無いのに、父の教え通り常に誠実に正直に、正しい事をしようと肝に銘じて日々を過ごして来たのに、そんな自分が常日頃遊んで来た友達は自分を信じてくれていないのだ、その事が彼女にはとても辛くて切なくて悲しいのでした。