Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(152)

2018-08-07 08:07:22 | 日記

 「さぁ、顔ぶれも揃ったし始めようか。」

蜻蛉さんは言うと茜さんに目配せして、先に立ってスタスタ歩き出しました。3人は境内の石碑の何時もの場所までやって来ました。早速石を拾って、穴の具合など思い思いに確かめてみます。その後埋もれている所があれば各自堀返したりして整えます。さて、と投げる回数を決めて準備は整いました。3人いざ!っという出で立ちでゲーム開始です。蛍さん以外の2人は勢い込んで勝負に熱中し、カンカン、コンコンと早速投石を始めました。

 蛍さんは昨日の今日という事もあり、朝から2人の険のある様子も感じ取っていましたから、余裕もありちょっと気分的に引いた感じで遊びに臨みました。そこで何時もより注意を払って2人の様子を見ていました。そうすると、不思議な事に昨日以上に穴までの石の道筋がよく見えて来ました。それは他の2人の穴までの道筋でもそうでした。当然勝利は蛍さんの手に転がり込み、ゲームを続ける事2回、3回と、勝とうと思っていない蛍さんが連続で1位になってしまうのでした。

 「一寸、石見せて。」

と、憤慨した感じで蜻蛉君。蛍さんの投げている石をキッとした目付きで覗きに来ました。自分の手持ちの石と蛍さんの手の中に有った石とを比べてみます。そう大して違いはない石の様子です。しかし、2個ほど代えてくれと彼は彼女と石の交換をしました。その間、茜さんは蛍さんの穴までの地面に素早く足で凸凹を付けていきました。そういった事には全く気が回らない蛍さんは、彼女の姿が手早く揺れ動く様を目の端に捉えていても、全く無頓着でその行動の意味に迄は考えが及ば無いのでした。

 『これで大丈夫。』

茜さんと蜻蛉君の2人は顔を見合わせてにんまりと笑いました。こんな2人の親密さにも蛍さんは全然気付いてさえいないのでした。彼女にとっての従姉とご近所さんは、生来の丁度良い仲良しの遊び仲間なのでした。1人っ子でおっとりとして育ってきた彼女には、未だライバルという意識は芽生えてい無かったのです。

 


土筆(151)

2018-08-07 00:00:51 | 日記

 そんな2人の燃え上がる敵意のような感情を感じつつ、蛍さんは未だ昨日の勝利に照れた感情の中にいました。彼女は普段そう勝利の感情を味わった事が無いだけに、勝者がどのようにしてよいのか分からなかったのです。昨日も嬉しいという感情より驚きの感情の方が大きくて、やったー!というような沸き立つ歓喜の表現が出来ず、呆然となり呆然自失としていたものです。そんな蛍さんの自身の勝利に対しての変化の無い様子が、勝者である事に慣れていた他の2人には返って全然理解出来ない事なのでした。

 『ふん、勿体ぶって。』

『嬉しいなら嬉しいと言えばいいのに。』

茜さんと蜻蛉君はそんな風に思っていました。2人は蛍さんの事を嫌味な人間だと思っているのです。年下だと思って遠慮しているなんて、女だと思って謙虚なつもりなんだ、と、自分達に対して蛍さんが慇懃な態度を取っているのだと誤解していたのです。負けて思いやられているのだと思うと彼等は自尊心が傷ついて酷く憤慨していたのでした。2人は表面抑えていましたが、内面には相当な憤りが湧き上がっているのでした。それは2人の瞳に険となって表れ、案外と世事に疎い蛍さんでさえそれとなく分かる程の妙なぎらつきのある光沢を発していました。

 『今日はその天狗の鼻を圧し折ってやる。』

蛍さんの毎日の努力を知らない2人は、彼女の勝利をただのツキだと勘違いしていました。彼女が毎日石投げ遊びの練習する事で、相当に実力を付けて来たのだという事に気付かないからでした。2人は蛍さんが練習している事自体を知らないのですからこれは当たり前の事なのでしょう。事情が分からない内は人という物は表面だけしか見ない傾向があるものです。この事に関しては大人も子供もそう大して差が無いのでした。