「さぁ、顔ぶれも揃ったし始めようか。」
蜻蛉さんは言うと茜さんに目配せして、先に立ってスタスタ歩き出しました。3人は境内の石碑の何時もの場所までやって来ました。早速石を拾って、穴の具合など思い思いに確かめてみます。その後埋もれている所があれば各自堀返したりして整えます。さて、と投げる回数を決めて準備は整いました。3人いざ!っという出で立ちでゲーム開始です。蛍さん以外の2人は勢い込んで勝負に熱中し、カンカン、コンコンと早速投石を始めました。
蛍さんは昨日の今日という事もあり、朝から2人の険のある様子も感じ取っていましたから、余裕もありちょっと気分的に引いた感じで遊びに臨みました。そこで何時もより注意を払って2人の様子を見ていました。そうすると、不思議な事に昨日以上に穴までの石の道筋がよく見えて来ました。それは他の2人の穴までの道筋でもそうでした。当然勝利は蛍さんの手に転がり込み、ゲームを続ける事2回、3回と、勝とうと思っていない蛍さんが連続で1位になってしまうのでした。
「一寸、石見せて。」
と、憤慨した感じで蜻蛉君。蛍さんの投げている石をキッとした目付きで覗きに来ました。自分の手持ちの石と蛍さんの手の中に有った石とを比べてみます。そう大して違いはない石の様子です。しかし、2個ほど代えてくれと彼は彼女と石の交換をしました。その間、茜さんは蛍さんの穴までの地面に素早く足で凸凹を付けていきました。そういった事には全く気が回らない蛍さんは、彼女の姿が手早く揺れ動く様を目の端に捉えていても、全く無頓着でその行動の意味に迄は考えが及ば無いのでした。
『これで大丈夫。』
茜さんと蜻蛉君の2人は顔を見合わせてにんまりと笑いました。こんな2人の親密さにも蛍さんは全然気付いてさえいないのでした。彼女にとっての従姉とご近所さんは、生来の丁度良い仲良しの遊び仲間なのでした。1人っ子でおっとりとして育ってきた彼女には、未だライバルという意識は芽生えてい無かったのです。