俺は初めてみたよ、あんな顔。こう、目が丸くなって、目の動きが無くなって、口もぽっかり金魚の口にそっくりで、本当に丸くてぽっかり口に穴が開いてるみたいだった、くくく…、思い出すと可笑しい…。蜻蛉君は忍び笑いをすると、可愛いなぁと小声で呟きました。彼の顔は思わずほんわかと緩み頬を染めて笑ってしまいました。
「それだわ。」
茜さんが合点して言いました。
「それで分かった。だからホーちゃんあんなになったんだわ。」
困った事をしてくれたわね。茜さんは我知らず石を拾う動作をしながら、おろおろとして蜻蛉君に文句を言い始めました。
「あの子を怒らせると怖いんだから…、」
それが何倍にもなって返って来るんだから、怒らせたら駄目よ。如何しよう、兄さんに言っておこうかな、いえ叔父さんの方がいいかな…。
茜さんは本当に困った様子で思案に暮れてしまうのでした。蜻蛉君の方はまだ事の事情が分かっていませんから、誤解したままです。てっきり蛍さんが自分の事を好きだから、それで泣き出したのだと思ったままでした。茜さんの言っている事がさっぱり彼には理解できませんでした。
「お前何言っているんだ。」
と、茜さんの方に視線を向けると尋ねました。