Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(159)

2018-08-18 11:18:05 | 日記

 実はこの時までに、『商売には信用が大事。』という、そんな言葉が蛍さんの胸の内には既にあったのでした。商売屋の祖父や父の話す言葉から、彼等の傍で幼い頃から話を聞き習う内に、彼女は信用という物についてとても大きな概念を持っていたのでした。

 『ホーちゃんは、何時もの遊び仲間の蜻蛉君に信用が無かったんだ。』

そう思うとしみじみとした寂寥感、絶望感の様な暗い影が彼女を捉えました。その彼女の全身を包み込んだ流砂の様な暗い影は、涙と共に彼女の胸の奥底からも湧き上がって来るのでした。それは彼女にとって生まれて初めて感じた挫折感でした。彼女は身に覚えのない事で疑われ、誤解されたという悲憤に駆られ、茜さんや蜻蛉君に背を向けると彼等から離れ、境内の奥の長い塀へと向かい、1歩、2歩と歩き始めました。そして彼女は塀まで行き着く事が出来ずに直ぐに立ち止まりました。この時彼女は絶望感で涙ぐんでいました。溢れる涙で視界が曇って、それ以上全く歩く事が出来なかったのです。

 そんな蛍さんから少し離れた場所で、茜さんと蜻蛉君の彼等2人は、さも仲良く楽しそうに声高に話声を上げました。彼等はいかにも石投げ遊びに興じている風情です。その声が蛍さんの耳に入らない訳がありませんでした。彼女は少し落ち着いてくると、耳に入って来るこの蜻蛉君のはしゃぐ声が、どうにも、如何にもという感じで態とらしく響くのでした。

『何だか…』

彼女は思いました。そう、自分に対してあからさまに当て付けがましいと感じたのです。彼の態度が自分に対して如何にも悪意があり、大変嫌味な態度に思えて来ました。蛍さんは蜻蛉君の事を大変嫌な子だと思うと、何だか今までの絶望感が和らいで来ました。目に溢れて来る涙も止まった様でした。

『あんな嫌な子、信用されなくたって、私構わないわ!』

彼女は唇を噛みしめました。