『本当に、あんな裁量でいいのだろうか?』
玄関に続く戸の後ろで、静かに聞き耳を立てて様子を窺っていた舅は、彼の妻の采配に一抹の不安を抱くのでした。
『女性の笑窪か、確かに男性には魅力的な物だがなぁ…』
そう心の中で呟きながら、彼は頭の中に女性の美人の条件を次々に思い浮かべていました。色白、二重瞼、面長、瓜実顔、八頭身、…、
『蛍だって、美人といえば昔の美人の条件にぴったりだが…。』
そう思います。
ふくよかなしもぶくれ、濃く豊かな黒い髪、濃い眉毛。彼はおすべらかし等の昔の美人画を思い浮かべてみます。弓形の細い目、笑った時のホーちゃんの眼だな等、孫の顔と比べると、祖父は全くその通りの顔だとぷっと吹き出し思わず笑ってしまうのでした。
祖父の笑い声を聞きつけて、当の蛍さんが、幾ら話し掛けても上の空で自分には愛想の無い母の元から離れるとにこやかにやって来ました。祖父が笑っているからにはそこで何か楽しい事があるのだ、詰まらないお母さんはここに置いてお祖父ちゃんの所へ行こうという具合です。
「お祖父ちゃん、何が可笑しいの?」
そう孫に声を掛けられた祖父は、おおそうそうと、にこやかに蛍さんの顔を覗き込んで、「お前ちょっと笑ってごらん。」と言うのでした。
お祖父ちゃん迄、またかと蛍さんは思いましたが、先程の母達との一件もあり、微笑ではなく大笑いしろという意味だと判断すると、彼女は祖父の前で思いっきりきゃっと笑ってみせます。