Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 176

2020-03-06 16:48:11 | 日記

 そして一呼吸置いて、ご主人は、これはまたと、呆れ顔になった。

「これはまた、越路さんも、孫になると手抜きだねぇ。」

そんな事を小馬鹿にしたように言うと、彼はぷっと吹き出した。「お前さん、そうだろう。」と、奥さんもぷっと吹き出し、パンも知らなかったんだよこの子は、食べさせてないんだねと、彼女はせせら笑いをした。

「それはそれは、流行り物を取り入れて無いとはねぇ。」

ご主人の言葉は流暢だ。「そんな事で商売の勘が養えるのかねぇ。」「将来の跡取りがそんな事ではねぇ。」越路屋さんの将来も危ないなぁと、彼は最後に嘆息気味に言うと、如何にも気の毒そうに顔を伏せた。

 「如何したんだかねぇ。」

奥さんがご主人の後を引き継ぐように話し出した。

「あすこの奥さんも、昔は自分の子供達にはと、一早くに流行り物を求めては買い与えていたものさね。金に糸目も何も無しだったがねぇ。…この子には如何したんだろうねぇ。」

うーむ、なぁと、ご主人も奥さんの話に相槌を打つ。

「はてさて、何か変化があったのかなぁ。」

そう言ったご主人に、変化って?と奥さんが如何にも不思議そうな顔付で問い返した。

「これはなぁ、大きな声では言えないがなぁ。」

と、ご主人。そろそろかもしれないなぁ。そろそろって言うと、お前さん。ご主人と奥さんの遣り取りは続く。

 私はこの目の前の老夫婦の、芝居っ気たっぷりの遣り取りを只ぽかんと口を開けて眺めていた。彼等の話す各々の言葉の意味は分かったが、その話の意味する所、話の意図がさっぱり汲み取れない。彼等は私にどうしろと言うのだろうか?、私は如何したらよいのだろうか?と、店先に立ったまま、私は立往生していた。

 そして、私はこれ迄に気付いた事柄、印象に残った事柄について考えてみた。この目の前のご夫婦の会話の流弁さは見事だった。私は暮れに見せてもらった商店の餅つきの2人を思い出した。彼等はあの2人に似ていると思った。

「仲が良くないとああは出来ないんだ。」

仲良しなんだな、あの2人。そうにこやかにしたり顔で父が口にしていた言葉を思い出す。私はピンときた。そうだ、この2人は餅つきの相方だ。その様に受け答えし、掛け合いをしていた。真に素早く流麗だ。会話の妙だと思った。

 感心した私は、にこやかで仲の良いお年寄夫婦なんだなぁと彼等に微笑んだ。家の祖父母同様、このお店のお年寄夫婦も極めて仲良しなのだ。そう考えて来ると私は彼等の事が微笑ましくなった。仲良き事は美しき哉である。私は朝から美しい物を見たのだと清々しい気分になった。

 「仲良き事は美しき哉。だね。」

私が父から教わった言葉だ。その言葉を言って、私は仲良しご夫婦から同意を求める様に笑いかけた。大人は皆この言葉を知っているのだと思っていた。

 しかし、御夫婦は言葉も無く4つの目を向け、きょとんとした顔で私を見詰めて来た。私は彼等からの愛想のよい返事を待っていたが、2人はしんとした儘で、動きも然程無く、その場は水を打ったような静けさになった。


うの華 175

2020-03-06 15:40:54 | 日記

 おばさんはそんな私を余所に、正座して俯くと、帳場に置いてあった眼鏡をかけて何やら記帳し始めた。

 コッペ2、交際費。雑費かな…。等々、ぶつぶつ何やら言っていたが、ちょいとと、奥に向かって声を掛けた。

「ご近所さんに上げるパンは交際費かい、雑費かい、または他の勘定がいいかね。」

どんな扱いにするんだい。

 そんな彼女の声掛けに、この家の奥から何人かの答えが返って来た。私は聞こえて来るままに、耳に入るそんな遣り取りを具に聞いていた。そして目に映るパンの方にも興味をそそられていた。初めて目にする物のように思えた。

 『食べるものか…。』

甘いものだといいなぁ。滅多に甘い物等口に入らない私だ。それらは私の目に決して甘そうには見えなかったが、もしかすると甘い物なのかもしれない、そう思い、目を細めると私は、期待を込めてパンケースの中のパンという代物を見詰めた。『目の前のこれが甘い物であります様に。南無南無…』私は手を擦り合わせた。

 「何だい、大きな声で。」

「表にまで聞こえてるんじゃないかい。」

恰幅の良い声を響かせてどしどしと男の人がお店に出て来た。この人はこの家の大旦那さんだ。しかし私はまだこの人の顔を覚えていなかった。彼は殆ど家の奥深くに居たので、私は滅多に顔を合わせた事が無かった。

 ご主人は何の費用代だい?と、半ば叱り加減で奥さんに声を掛けた。奥さんは慣れたものであら怖い等言って、帳簿から顔を上げないでいたが、一呼吸間を置いてから、そっと私に視線を送ると、越路屋さんの、ほれ孫の智ちゃんだったよねと、私の方を見て言葉を促した。

 そうだよ、智ちゃんですと、私は大旦那さんのご機嫌を取る様に、おはようございますと挨拶した。すると、大旦那さんは私の方に一瞥もくれず、反対に私から顔を背けると、「ちゃんは余計だね。」と、向こう側へ言葉を吐き捨てた。


今日の思い出を振り返って見る

2020-03-06 15:34:26 | 日記
 
親交 7

 研究者としての物を追究する姿勢、何にでも興味を持って1つの事を発展させて考えてみる慣例から、紫苑さんは自分の心に留まったあの青年の事について、思い付くままにあれこれと想像し、その......
 

 雨が降ったりしましたが、お天気はよく暖かいです。外出すると、車の渋滞に出会いました。新しいスーパーが開店し、そのお店に行く列でした。所要が有る方向が同じだったので、かなり時間が掛かりました。お陰で、車のナビを使うのを習いました。