「不思議?何が?。」
奥さんが問い掛けて来た。
そこで、私がよくよく奥さんの顔を眺めてみると、彼女は本当に不思議そうな顔付きをして私を見ていた。そして私の顔を見詰めながら、彼女は目を瞬いた。私もそんな奥さんを不思議そうに見詰め返して、やはり目を瞬いてみる。
「何だか変だね。」
奥さんは、何時もと様子が違うわと言うと、この子も何だか今日は妙ねぇと私から視線を外すと、自分の夫に訴えかけた。
ご主人の方は、
「大体あそこの家は元から妙なんだよ。」
と呟くと、俯き加減になり奥さんに話しを合わせていたが、子供の手前深い話は差し控えた。後から、後からと、ご主人の方はそう言い出すと話を切り上げてしまった。
「ほんとに、智ちゃんのお母さんは奇麗だね。」
目を細めた柔和な笑顔で私の顔を見詰めると、改めてご主人はそう言った。この再三の私の母に対する褒め言葉に、私は母の顔を思い浮かべてみた。『何処が綺麗なのだろう?。』私は首を傾げた。そんな私を見て、
「心の話だよ。」
奥さんの方が言った。智ちゃんのお母さんは心の綺麗な人だねぇ。
「本当に、あんな性根の良い人はなかなかいないよ。」
出来た人だとご主人も口を揃えた。
今朝は不可思議だ。納得出来無い言葉ばかりを聞かされる。不満げに質問を始めた私は、2番目に訪問したこのお店からも、忙しいからという理由で早々に追い払われた。そこで私はお店のガラス戸を押して往来に出て来た。こんな事が2回目ともなると私は流石に気落ちした。散歩を続ける気持ちが全く無くなり直ぐに帰途に着いた。
私の家の在るこの通りには、市内を走る巡回バスが通っていた。丁度出て来た店と家までの道の真ん中にそのバス停があった。そこには煙草やパン等を売るお店があったが、そのお店の前で、私はぱったりとその店の大奥さんである初老の婦人に出会った。
「あら、智ちゃんだったね。」
私は大奥さんに声を掛けられた。
彼女は私の顔を不思議な表情で見下ろして来た。しげしげと私に視線を注いで、何かしら私の様子を観察している様子で、見開かれた眼が印象的でとても真面目な表情だった。私は、相手から何かを読み取ろうとする様なこんな彼女の仕草が家の祖母と似ていると感じた。