故郷での休暇から帰り、健康診断を終えたミルにドクター・マル氏は言うのでした。
「異常無しだよ。気分は如何だね?。」
無論ミルは上々だと答えました。彼の明るく晴れやかな笑顔がそれは真実だという事を物語っています。聞くまでもなかったな、ニヤリとしてマルは思いました。
「それより、」と、ミルは不思議そうな顔付きに変わると、この宇宙船の船医であるドクター・マルに言うのでした。
「如何したんですか、その頭は?。」
見ると、ミルの目の前のドクターは真に見事なスキンヘッドをしているのでした。
ミルが休暇に入る前のドクターはというと、彼の側面部の髪は黄金色で艶やかに長く伸び、真っ直ぐな髪がまるで黄金色の水の滴りのように流れ落ちていました。反対に彼の頭頂部付近はというと、やはり色は黄金色でしたが、時に褐色の毛が混じり、巻き毛であり、その巻き髪は中心に向けて1つに纏まり、丸くこんもりとした形に渦を巻いて天を突くという、緩やかな円錐の形をしていました。さながらそれは緩やかに巻き上がった1本の角のようにも見えるのでした。ドクター・マルは、大抵の時にはこの自分の側面の髪を首の後ろで1つに纏めると、お下げ髪として首の後方に纏めて流し、頭頂部の巻き毛の方はその儘で、うねりに任せて自然に頭上へ巻き上がらせていました。
その黄金と褐色の筋が入った巻髪で出来たマルの一角は、持ち主マルの動きに合わせ、彼が飛び回るこの診察室の至る所でフルフルと柔らかにうねり、跳ね、コミカルな動きを演じていました。その為この診察室を訪れる宇宙船のメンバーの大抵は、長旅や病からくる疲労感や憂鬱感に沈んでいても、彼の巻き毛の角から新しい勇気や新鮮な元気を得ていました。彼等はマルの診察室で癒されリフレッシュすると、再びこの宇宙船での各々の任務に就くのでした。
その為、今ミルの目の前にいる現在のドクターの姿は、丸く光沢を発する頭だけとなり果てていて、髪の毛が一切無く、ミルには全く見慣れない彼の姿だったのでした。