Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 180

2020-03-12 14:27:02 | 日記

 「あら、その紙の包みは何かな?。」

家に帰ってきた私の、手の中の包みを見て祖母が言った。祖母は居間に入る前の部屋で、私を待ってでもいたかのように立ち止まっていた。

 「パンという物だって。」と、私は祖母に答えた。これが食べ物だと分かっていたが、私はその時、何故かそれを食べようと思う食慾が湧いて来なかった。そんな私に、最初明るく穏やかな笑顔で迎えた祖母であったが、私のこの滅入っている様子を見ては、彼女も顔を曇らせずには済ませられなかった。それでもすぐに、彼女はまた私の気を引き立たせるように優しく微笑んで見せた。続いて私に話し掛ける声も、如何にも子供をあやすような声音で接して来た。

 彼女はどれどれとパンの包みを私の手から取り上げた。

「パンだってね、これは、美味しい物なんだよ。」

そう彼女は言うと、かさかさと紙包みを広げ始めた。中からは茶色い背をしたコッペパンが顔を覗かせた。祖母は私の目の前にその食べ物を紙包みごと差し出してほらと見せてくれた。

「知ってる。」

と私は気乗り無さそうに言った。さっきお店のガラスケースの中で並んでいるのを見たから、と。

 祖母は、へーっというと、私の無関心な様子に当てが外れた様子で、伏し目がちになると肩を落としがっかりした雰囲気になった。彼女はその儘何か考え事をしている様子で、心此処に非ずの態でいたが、彼女の手は無意識にそのパンを2つに分けた。そして心持小さい方を私に差し出しながら、食べないかいと言う。

 私は相変わらず食欲は無かったが、祖母に逆らわずにその小さなパンの塊を自分の手に受け取った。私は手に握られた不思議な感触の食べ物を眺めていた。私が貰ったパンの割口を上に向けて覗くと、色は違うがカステラの見た目に似ていると感じた。カステラよりは柔らかく軽い感じがする。食べてごらんと祖母が促したが、私は未だそれを口に運ぶ事を躊躇っていた。1度ガラスケースの中を覗いて見ていた物だが、私には初めて出会う代物だ、取っつき難い物があった。

 すると祖母は貸してごらんと、私に1度寄こしたパンを彼女の手にまた受け取り、茶色い部分の皮を指でぽりぽりと剥がし始めた。剥がした皮は包み紙の上に落とされた。祖母はその白い中身のむき出しになったパンを私の手にはいと返すと、今度は自分の手元にあるパンの茶色い皮を剥がし始めた。ぼそぼそと歪に皮が剥がれた白いパンを、祖母は手本を見せる様に自分の口へと運んだ。彼女はぱくりとそれを銜えると、もぐもぐと口を動かし、ほらお前もこうやって食べてごらんと言った。

 私はやはり気が乗らなかったが、祖母の真似をして、ぱくりとパンの割り口の方に食らいついた。初めはただ銜えてみただけだったが、ふわっとした感じや、その内何かしらの味が舌に沁みて来たので、味に釣られるようにして口の中の白い部分を少々噛み切ると、もぐもぐと奥歯で噛んでみた。私にはよく分からない味だが、悪くない味だと思った。何しろ売られている食べ物だ。お金が要る物だ。と、そう気が付くと、私はお店のおばさんが言ったお代の事を思い出した。


うの華 179

2020-03-12 13:22:19 | 日記

 すると、奥さんの方はどう思ったのか知れないが、自分が立っていた帳場の畳上から、さーっとばかりに進むと急いで玄関に降り立った。カタカタと履物を履くのももどかしい様子で、すぐ様に店頭にいる私の傍へとやって来た。彼女は思い詰めた様に赤い目をして私を睨んでいた。私は頭上から見下ろして来る強面の奥さんの顔に、今から何を怒られるのだろうと、彼女から怒鳴られる事を覚悟して縮こまった。

 「さ、これを持ってお帰り。」

口早で冷静な声だった。彼女の差し出す手には紙包みが有った。包みの中身は先程彼女がパンケースから取り出していたパンだろう。大きさからみるとパンが1個入っている様子だ。咄嗟の事だったが、私は2個じゃないのだと包みの様子を怪訝に思った。

 「何だい、文句でもあるのかい。」

私の顔付きに、彼女はぽんと言葉を発した。

「大体、あんたの家の人は皆そうだが、人様を何だと思っているんだい。」

馬鹿にして。と、こう喋り出した彼女は相当癇が立っていた。眉間に青筋まで走っている。行き成り怖い顔で詰め寄られた私はべそを掻きそうになった。今、何を言っていいのか分からない。何故彼女がそう迄私の事を怒っているのかも分からない。私は困り切った。

 「おいおい、その子のせいじゃ無いだろう。」

ご主人が声を掛けて来た。その子に言っても埒が明かないだろう。そう奥さんを諭すと、奥さんは、それでも…と、まだ何か言い足りなそうにしてご主人の顔を見た。ご主人が帳場でドンと構えているので、奥さんも二の句が継げないようだ。

「広告費にしたらどうだい。」

ご主人が言う。この声に奥さんが不思議そうに広告?と呟くと。ご主人は宣伝費の事だよと言った。

「それでいいじゃないか、家は商店なんだ。」

「商売の付き合いにしておけばいいんだ。そうすれば腹も立たないさ。」

と、彼はあくまでも冷静な素振りだった。奥さんの方はそんなご亭主に、「そんな…、」と悲しそうな気配で、お前さんだって五郎ちゃんや、二郎ちゃんは大のお気に入りだっただろうにと訴えた。

 するとご主人も俯いて目を閉じたが、やや進んで帳場に来ると、そこで屈み込んで手に鉛筆を持ち、無言で何やら書き込んだ。そんな夫に、店頭にいた妻は急いで煙草棚に走り寄ると、棚の向こうにあるらしい帳簿を覗き込んだ。へえぇ、ふううん。奥さんは唸ると、そんなになるんだと呟いた。

 その後彼女は、それよりと言うと、いっそこの方がと、貸して、とご主人から鉛筆を譲り受けると、サラサラと何やら帳簿に書き込んでいたが、それを見てご主人の言う、お前それでいいのかいと言う言葉にええと頷くと、放心したような顔付でこちらへ振り返った。

 彼女は沈んだ感じで肩を落としていたが、そろそろと静かに歩み寄り私のいる場所へと戻って来た。今度の彼女は先程の怒りを含んだ形相とは違い、打って変わって、何だかこちらに気の毒そうな顔付をしていた。私は彼女のその憐れむような瞳に、彼女が自分の事を可愛そうにと思っているのだと感じた。この時の私は、彼女に怒られるより、可哀そうがられる方が良かった。

 彼女は言いにくそうに、又は如何言ったらよいかを考える様に、口の中で言葉を細々噛み砕いていたが、

「ありがとうございました。」

「これは1個〇円だからね。お代は後でいいからね。」

と口にした。その後寂しそうに微笑むと、さようなら、あなたのお祖母ちゃんに宜しくね、と、私を帰りの道まで送り出してくれた。

 彼女の送り出してくれた方向が、私の帰途方向に当たっていたので、私はやむなく散歩を取り止める事になった。私は紙包みのコッペパンを1個携えて、早々に朝の散歩から自分の家に戻て来る羽目になった。


今日の思い出を振り返ってみる

2020-03-12 13:19:20 | 日記
 
親交 12

 本当にこの星の住人は感情が複雑だなぁ。目の前の地球人の年嵩の男性、その彼の目まぐるしいオーラの色の変化に、鷹夫こと異星人のミルは思わず溜め息を吐いてしまいます。「如何したのか......
 

 良いお天気になりました。