Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

靄 3ー2

2025-03-08 07:01:24 | 日記
 胸を摩すり動機の音を鎮めながら、なかなか収まらない動機にこれ迄重ねて来た歳月、自身の年齢を感じました。体力が落ちていると感じつつ、私の脳裏に「垂乳根」の言葉が思い浮かびました。すると私は未だ未だ新米ママなのだ、我が子を守る為ここは親として踏ん張らなければ、と、母になって2年余りの自分の身を自覚すると、親権者として自分を鼓舞するのでした。
 何か手立てを考えないと、もどかしく時が経過して行くという焦りを感じ、私は無理にでも動悸を収めようとしました。そうだ!、鼓動を感じ無いよう胸から手を離そう。そう思いつくと、摩る手を止めてそうっと胸からそれを離しました。ドキドキの音は遠去かり、一見心臓は落ち着いているように感じます。ここで、兎に角と、私は一呼吸すると、穏便に子を呼び戻す方法を探りました。
 如何にも、サッと靄の中に踏み込み進み、パッパと子に近づけばよいものを、自身でもそう思うのですが、私の以前の経験から、私の中の何かが容易く靄の中に足を踏み入れ無いようにと告げて来ます。第六感という物でしょうか、それは単なる杞憂という物かもしれませんでしたが。
 私は境内地表に濃く白く沈殿したように降りる靄が、何かの拍子で沸き立ち上り、辺りが霧のように覆われ境内一体の視界が遮られる事を危惧していました。そうなれば、今目にしている子の姿は瞬く間に失われ、その後どんな結末が起きるのか、私には想像だに出来ない気がしていました。それはきっとよく無い結果に違いない。私は考えました。
 私の足元の靄は私の膝より下、子の周囲の靄はと見ると、やはり子の背丈でも彼の膝より下の脹脛、足首高さの嵩に見えました。普段は平坦な地形に見えたけれど、境内は高低の差がある地形なのだろう、私は思いました。木々の並ぶ中央、開けた土地の中央には、ピッチャーズマウンドのような小高い場所でも有るのだろうか、そう考えると、私のいる場所と子のいる場所での靄の深さの違いが分かる気がしました。さて、如何言って声を掛けたものか、私は思案していました。
 幸い子供の方は動きが無く、この間私に背を向けた儘向こうの景色を静観している様子でした。普段活発でじっとしている事が殆ど無い、あの子にしては非常に珍しい事と、私はその停滞に安堵感を覚えましたが、子供の事、いつ何時気が変わるかもしれないと、我が子への声掛けを急ぎました。こんな場合、最初の一声は名前でしょう。私は子の名前を呼びました。彼を驚かさないように、出来るだけ穏やかに明るく、普段より優しそうな声音で。