Jun日記(さと さとみの世界)

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靄 3ー3

2025-03-10 09:36:26 | 日記
 子は直ぐに振り返りませんでした。数回、私は彼への声掛けの度に声量を上げて行来ました。すると子は、漸く私の声だと察したのか、そうっとこちらへ振り返りました。母娘の声は似ています、私と母もそうでした。
 彼は顔だけこちらへ振り向けたのですが、私の方を見ました。彼の表情を見ると、ごく普通の表情をしていました。私の存在に驚いた風でも有りませんでした。ああ、お母さんかという感じでした。そうして今振り返ったのを機に、自分の周囲をゆっくりと眺め始めました。私はそんな彼の表情を窺っていました。そうやって、次に掛ける言葉を何にしようかと決定する為でした。
 子供の方は小さいなりに、境内の光景に普段と見慣れぬ事象を見て、何かしらの感銘を受けたのでしょう、ほうっと嘆息を漏らすように口元を緩めると、初心初心とした目と頬をしていました。折に触れてという、それは感慨深い思いを抱いている風情にも見えました。こんなに小さな子の幼心でも、畏敬の念という物が湧くのかしら?。人の母となり数年の、未だ経験不足の私には不思議な感じがしました。
 お母さんよ、と、確認の為子に語り掛け、私は子の名前を呼びました。続いておいでおいでと、こちらへ来るよう手を振りました。子の様子から機嫌は悪く無いようでしたから、普通に、彼を刺激しないように語り掛けました。元々散歩中に手を離して駆け出して行ってしまう、鉄砲玉のような子でしたが、何時も私が捕まえに行っていました。私が彼に追い付く迄、子は興味のある場所に留まっていたものです。が、今回は、私は子のいる場所迄境内を進んで行く気になれませんでした。何とか自分のいるこの場所迄、あの子を呼び戻さねばと図るのでした。

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