「私はてっきり…」
茜さんは投げる石のコースを図っている蜻蛉君に言いました。
「あの子は負けるのが嫌で機嫌が悪いんだと思ってたわ。私とあんたの仲が気になっていたなんてね。」
何だか茜さんには妙な気がします。『あのホーちゃんが、人の事をやっかむ様な事をするなんて…』、どうも蜻蛉君の言う事が彼女には腑に落ちないのです。そう怪訝に思い彼女が再び蛍さんの方を見ると、丁度蛍さんがこちらを向きました。
蛍さんは濡れたまつ毛にぱっちりした瞳を見開き、スッキリとした顔つきをしていました。そして茜さんと目が合うとニコリと微笑みました。蛍さんにすると茜さんが心配してこちらを見たのだと思い、心配ないよと笑顔を返したつもりなのです。その何時も通りの蛍さんの笑顔を見た茜さんは確信しました。従妹は私達の事を気に病んでなんかいないと。
「ホーちゃん、別に私達の事は怒ってないと思うわ。」
そう蜻蛉君に言うと、少なくとも従妹の私に対してはそうだ、と茜さんは思いました。
それに、と彼女は続けて蜻蛉君に言いました。
「あの子、誰かが目の前で仲良くしてても、今まで怒った事が無い子なのよ。」
ぼそっとした彼女の言い様には、自分の従妹に対して誤解された、あの子が可哀想だという様な、蜻蛉君の蛍さんへの決めつけに対しての批判が込められているのでした。
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