「酷いなぁ。」
あそこの足場が悪いなら悪いと教えてくれればよかったのに、ミルも苦笑いしながら彼女に苦情を言うのでした。ここで昔馴染み同士は如何にも楽しそうに笑い合うと、親し気に明るく思い出話に花を咲かせるのでした。
2人の昔話が一頻済むと、彼女はこの先の沢で一休みしようとミルを誘いました。朝から山歩きして乾いた喉をその場所に湧いている水で潤そうというのです。喉が渇いていたミルは勿論賛成しました。そこで2人はのんびりと沢迄降りると、昔通りに何時もの場所で滾々と湧いていた清水で、疲れと乾いた喉を癒やしました。
「この湧き水相変わらず美味しいなぁ。」
ミルが如何にも嬉しそうに感嘆して言うと、そうねぇと彼女も同意しました。彼女は傍にあった岩に腰かけると自分の袋からカウの実を取り出し一齧りしました。新鮮な果肉が彼女の口の中に取り込まれ、その濃厚な果汁が薫り高く甘く彼女の口の中に広がりました。フフフと彼女は一人思い出し笑いを始めました。そして彼女は改まった様に彼の顔を覗き込み微笑みました。
「実は、」
と彼女は話し始めました。
彼の帰郷する前日、彼女は彼の祖父から、この山でカウの実を集める事を頼まれたのだと話すのでした。
「カウの実は新鮮な方が良く効くもの。ミルのお祖父さんはミルの事がとても可愛くてしょうがないのね。」
彼女は目を細めてミルを見るとくすくすと笑うのでした。
「嫌だな、小さな子供みたいに言わないでくれよ。」
そうミルは照れるのですが、そうだったのか、とても助かったよ。と彼女に感謝の意を伝えたのでした。それは役に立ってよかった、散々苦労した甲斐があったというものだ、自分様様…、と冗談めかしてふんぞり返って笑う彼女に、ミルもまた、如何にもふざけて再三再四お世話になった、ありがたかった、おかげさまで…と、平身低頭してあらゆるお礼の言葉を並べるのでした。
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