Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、7

2017-02-07 20:17:23 | 日記

 「なあ、蛍、お前より背が低い子でも、お前より年上の子の時があるんだぞ。」

ちゃんと知っておかないと、と蛍さんのお父さんは言います。

 お前がさっき小川の所で話した男の子だがなぁ、お前より1つ年が上のお子さんだそうだ。

背はお前より小さいが、生まれたのはお前よりも昔で1年程早いから、年上のお兄さんなんだぞ。

それなのに、お前は僕呼ばわりして、その上あの子にデブだと言ったそうじゃないか。後でちゃんと謝るんだよ。

話を聞いてお父さんは恥ずかしくて何も言えなかったんだぞ、その場で謝って直ぐに帰って来た。

もう帰ろう。お祖父さんが帰って来て、お前が謝ってからな。

 父はそう言って、蛍さんが見た事も無いくらいしょんぼりした、緊張した面持ちで縁側に立つと、

そのまま蛍さんと目を合わせようとしませんでした。

 この父の様子に、蛍さんは自分がとんでもない事、取り返しのつかない過ちをしてしまったと感じ取るのでした。

『困ったわ、何時もの様に子供のした事で済まないのかしら?』

何だか父の様子がいつもと違うので、蛍さんは酷く不安になります。

思えばさっきの祖父の様子も違っていました。

蛍さんは、今までお祖父さんに睨まれた事などついぞ無かったのです。

「何時もの様に、子供のした事なんで…。で、済まないの?」

蛍さんはお父さんに訊いてみます。

 お前なぁと、父は呆れたように横目で蛍さんの顔を見て、

真剣な表情の我が子の顔色に、ふふっと、安心させるようにそうだなぁと微笑むと、

その手があるなぁと、お前いい事を思いついたな。そう言うと顔色が明るくなりました。

そして蛍さんのお父さんはお祖父さんの行った方向、本堂の奥の方へと歩み去っていきました。

 廊下に残った蛍さんもにこにこして、これで全て丸く収まるだろうとほっとするのでした。

「万事子供の私がした事で、私が悪いという事にすれば何でも丸く収まるんだから。」

蛍さんにすれば、何時もの母の教えを実践しただけの事だったのです。

そしてこう呟くと、何だかやり切れない気持ちで溜息をふうっと吐くのでした。

「あとは私がごめんなさいと謝るだけね。」

こう覚悟を決めて、廊下の窓から外を眺めていた蛍さんの表情は、この時誰も見る事が出来ませんでした。


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