Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 101

2019-11-23 10:55:24 | 日記

 こんな古めかしい木のせいで怪我するところだった。「もう!」と私は床を掌でバシバシと打った。

「痛!。」

私は新しい痛みに声を上げた。床を打った掌を仰向けてみると、赤い血がにじみ出ていた。手を板に打ち付けた事で私の薄い手の皮が破れたのだ。又は板のささくれた部分にでも皮膚を引っかけたのだろう。血は丸く小さく膨らんで来た。私はこの思わぬ出血にげんなりした。あの沁みる薬を塗らなければいけなくなったからだ。

「短気は損気だな。」

部屋の中から呟くような感嘆するような祖父の声がした。これがそうだね、あの子は地で行ったね。割合短気な子だね。そんな静かな言葉を、彼は如何やら自分の連れ合いに語り掛けている様子だ。お父さんたら、祖母も夫に答えていたが、やはりぼそぼそとあまり気に障る様な事を言うなと言うと声を落とした。

 私は隣の部屋の祖父母の話を気に留めずにいた。自身の怪我の事で頭が一杯だった。怪我したと母に言うかどうか、言わずにいるという訳にも行かないだろうと思うと気が沈んだ。溜息を吐いて躊躇すると、その場に留まり出血の原因となった物を探した、確かにちくっとした物があった感じだ。手で叩いた床の部分をよくよく見詰めて探ってみた。すると、板の割れ込んだあたりに小さなささくれの尖った部分が目についた。これだなと思った。指先でそっと触れてみると、確かにつくつくとした抵抗感がある。

「こんな所に思わぬ伏兵が。」

当時の子供達の遊びの中で使われている言葉を使うと、ははは、聞いたかい?。ホホホ、ええ。と、障子の向こうは急に華やかで明るい雰囲気へと変わった。その後は笑い声と祖父母の弾んだ話声が続き、我が家の何時もは静かで荘厳な年寄りの部屋は活気を帯びてぱっと春めいて来た。私はそんな隣の部屋の様子を喜んだ。昔と比べ最近は重苦しく沈みがちな彼ら2人と2人の部屋だったのだ。

『昔のようにお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが明るくなった。』

楽しそうで良かったと思った。私は一瞬自分の怪我の事は忘れて目の前の白い障子の紙を見詰めていた。


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