「お前が寝るならお父さんも寝ようかな。」
父は身動きせずに言葉だけでそんな事を言った。そうして寝転ぶ私の視界から消えたところをみると、父は自分の布団を取りに言った様子だ。私はそう推理して瞳を閉じた。
父が私の布団の裾であちらこちらと動く気配を感じながら、私は瞳を閉じていた。ひたひたと寄せて来る闇によって、周りの世界が暗いと感じた私は、直ぐに睡魔によってすいとばかりに眠りの淵に呼び寄せられた。そしてそこで、父の発する耳障りな音声、彼の語る言葉に現へと呼び戻された。そんなこんなの繰り返しを何度か、私は夢現となり、現実と夢の波の狭間で行きつ戻りつ、どちらつかずの波打ち際で喘ぎはじめた。
「お前もなぁ。」
父はうろうろと布団を運びながら語り続けている。ぼうっとした私の耳に、彼の言葉が位置を変えてそこかしこから聞こえて来る様だ。
本当に、…あんな物使うつもりだったのか。お前が。子供なのに。お父さんだろう。私は。考え違いという物だぞ。全く。父さんの言う通りだ。…。
だがなぁ、母さんじゃ、勘違いだと言うし。…。どうなっているんだかなぁ。子供が親を、だ。変だろう、全く。今の世の中は…。
ここで父の話は静かになり、足音が止むと畳の振動も途絶えた。様子だ。部屋はしんとなり、私はやっと落ち着いた眠りの島に辿り着く事が出来た。これで漸くぐうとばかりに、睡魔に導かれるに任せて眠りの世界に踏み入る事が出来るのだ。…。
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