Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

蝶ちょう(6)

2018-12-21 14:25:54 | 日記

 私は周囲の日の陰りに、太陽が落ちて夜の来る事が近い事を悟りました。また、自分の手が固く、感覚が無く、このまま蝶の羽を摘まんでいると大好きな蝶の羽を傷めてしまいそうだと考えました。いえ、もうその羽を傷めているのかもしれないと思いました。そしてやはりこの蝶は死んでしまったのかもしれないと不安に思いました。そこで蝶を摘まんでいた指を緩めると、自分の指の感覚を開いてみました。

 私が蝶の様子を見ようと覗き込むと、白い羽の一方が私の片方の指にくっ付いているようでした、と見るや、その白い羽はふっと指から外れて下に落ちました。私があっと声に出す暇も無く蝶が落ちたであろう地面を見ると、そこには何も無く、あれ蝶は?、何処へ?と、私が思う間も有ればこそでした。ひらひらと舞う白い色が蝶を探す私の目に映りました。蝶は意外にも空間へと元気に舞い始め、その生命の確かな事を私に感じさせると、すいっと私達のいる空き地の空間を抜けて行き、ゆうるりと遠く渡って私から離れて行くと、何処かの路地へとその白い姿を消して仕舞いました。

 『生きてたんだ。良かった。』

私はほっとして蝶を見送っていました。一息つくと私は連れの子の所へ向かいました。

 「逃がしたんか?」

如何にも勿体ないと言わんばかりに不満げな顔を私に向けて、その子がそう言う言葉を聞きながら、私の心中は捕まえた獲物を逃したという惜しい気持ちよりも、あの蝶が生きていてよかったという嬉しい気持の方で満たされていました。自分の手で蝶を捕まえて、今日は遂に指に掴む事が出来て本当に良かったと思う達成感や、その蝶を傷つけていなかったのだという安堵感が私を暖かく包んでいました。蝶の捕獲の成功と、蝶の生命の維持、そのどれもがその時の私の意に叶っていたのです。私は幸福な満足感に包まれていたのでした。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿