何だか座が白けた感じになった。
こういう状態の事を言うのだろうが、私にはこういった場の沈黙が何を意味しているのかさっぱり分からなかった。如何してよいのか分からないので困ってしまった。私の今朝の散歩は初手から困惑続きだ。私はこのまま果てしなく困惑が続きそうな予感に、何かしなければと思うと焦った。
そこで、
「おじさん達、よかったよ。」
と、私はパチパチと手を叩いて拍手喝采した。勿論顔には満面の商業スマイルを付けた、ご近所さんだもの。私は極めてご機嫌の顔付きをして、彼等の夫婦善哉の舞台を褒めたつもりだった。
「お前さん分かるかい?。」
奥さんの方が声を掛けた。「否、お前の方がこう言う事は分かるだろう。」。そうご主人は返す。そんな夫婦のやり取りをして数回、また帳場には水を打ったような静けさが戻って来た。
「嫌味だと思うかい?。」
奥さんが俯き、呟くように言った。これはご主人に言った言葉だろう、私は思った。さぁなぁとご主人も俯いてしまった。
その後の2人はお互いに視線を向けず、各々考え込んでいたが、到頭私から正面を背けると、中腰になり立ち上がった奥さんと、身を屈めてそれに耳を傾ける姿勢になったご主人とで、彼等は額を寄せあった。そうして2人でぼそぼそ小声で打合せしていた様子だが、遂には夫婦共に私からは身を返して仕舞い、共に2人立ち上がった姿勢になると、私の方へは殆ど背を向けるような形でやや奥へと遠ざかった。
そうしてまた夫婦2人ぼそぼそと小声で何やら話し込んでいた。お陰で私の目にはどちらの顔色もさっぱり読み取れなかった。また、読み取れたとしても、やはり私には何も分からなかっただろう。
「何かの禅問答かい?。」
遂に奥さんが振り返り、彼女は帳場に戻りながら私の顔を見て話し掛けた。
「否、寄席か芝居の言葉だよな。」
判然としない雰囲気で、やはりご主人も振り返ると元の場所まで戻り、私の顔を見て問い掛けて来た。
「そういう言葉を聞いた覚えがあるなぁ、どこぞの芝居小屋だったかな?。」
ご主人はそう言うと首を傾げ、立ったまま俯いて、まだ何やら考え込んでいる気配だ。
先程迄の御亭主の威勢の良さは何処へやら、ちゃきちゃきの声音だった相方の奥さんの方も、商売気たっぷりに見えた商人魂が失せてしまったようだ。私の目に2人は極めて沈んだ雰囲気になった。
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