そう気持ちを決めると、蛍さんの気持ちはさっぱりと切り替わりました。信用できない人の為に自分が悲しんでいるなんて、何て自分は馬鹿なんだろう。あんな人を今迄仲良しだと思っていたなんて、自分は本当になんて馬鹿だったのだ。
『馬鹿は人から嫌われる、そんな馬鹿でいいのか!』
彼女は何時もの父の言葉を胸に思い起こしました。そしてキッ!と気持ちを引き立てるのでした。私は馬鹿じゃないんだから、『嫌な人に負けないわ!』と。
しかしここで、蜻蛉君の言う事がもし嘘なら、何故彼女の従兄の曙さんも、彼女を態々蜻蛉君が教えたと同じ場所に連れて行き、彼と同じようにここに土筆があると教えたのでしょうか?
また、何故蜻蛉君はその場所を彼女に見せて、その場所が土筆の生える場所である事を彼女に教えようとしたのでしょうか?
この時の蛍さんにはこれは答えの出ない疑問でした。疑問どころか、彼女は曙さんの教えた場所と蜻蛉君の教えた場所が同一の場所だという事にまだ気付いてさえいないのでした。それでも彼女は、蜻蛉君の言う事は信頼できないと決めてかかった時に、何となく蟠りの様な引っ掛かりが胸の内に起こった事を感じました。そこで蛍さんはその胸の内に湧いた何かについて不思議に思い、それが何だろうかと木戸を見詰めて探ろうとしました。が、その時点の彼女にはそれは無理な相談というものでした。
このお寺で何度か遊んだ事のある彼女でしたが、本堂の裏手へ行く道順は最初に教えられた通りでした。その道順は何時も一方通行でした。帰りもその一方通行の道を戻るのです。つまり、今目にしている木の塀の向こう側へ行く時は、彼女は今いる場所とは反対方向、本堂の向かって左側方向からしか行った事が無かったのです。この時の彼女は、本堂を向かって左側方向からぐるりと回って行くと、今目にしている木戸の裏側、つまり本堂に向かって右側に来るのだという事を、全く把握してい無かったのでした。
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