Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

卯の花3 61

2020-10-29 10:19:52 | 日記
 遜った父の姿。私は、彼の子である自分に対して、父がこのように礼を尽くすとは思わなかった。私は怒りに身を震わせてはいたが、父の反応に可なり驚いて唖然とした。色々な思考と身体的な状態の中、私はぼんやりする頭の中で、大声で感情任せに自分の父を怒鳴った己の非を感じ取っていた。が、これで父も私の台所へ来た理由、何故こうも急ぐのかを理解出来た事だろうと一人合点した。私はくるりと父に背を向けて、ぱたぱたと目的の場所へと急いだ。

 が、

「まあ、智、それはそれとして…、」

と、思いもよらず背後から私を呼び止める父の声が掛かった。そう急ぐ事もあるまい、少し話をしようというのである。

 「お前なぁ…」、父が言い掛けたが、もはや私は怒り心頭に発した状態に達した。私は振り向きざまに、「この馬鹿野郎!」と、父の方へ身を乗りだすようにして怒鳴った。先程の罵声に輪を掛けて、私に取って渾身の、拳を握り締めてあらん限りの大きな声で、怒涛の様な一撃をくり出した。勿論声だけのことだった。

 「トイレだって言ってるだろ!。」

私は続けた。「如何いうつもりなんだ!、いい加減にしろ!。」。そう言いだした途端、先程同様、肩を窄めて身を低くした私の父は、俯いて自分の視線を己が足元に伏せると、私の続く言葉に2歩3歩とささっと後退りして行く。そうして彼は平身低頭、

「誠に申し訳ございません。」

と、両手を彼の膝程に迄下げて、私に向かって深々と頭を下げると謝罪したのだった。

 私はくらくらとして思考が出来ない状態になった。目の前の頭を下げた父に対して何思う考えも浮かばない。えーっと、と、何だっけと思う。そうだ、トイレだと、私は台所へ来た目的を思いだした。『先ずそれだ、トイレに達するのだ、そこがゴールだ。』。私は日頃のボードゲームを連想した。三角のコマと、四隅の各々の陣地。陣地はトイレだ。そんな事を思い、礼をしている父の黒い頭を自身の目の最後に、私は回れ右をすると、宙に浮く様で覚束ない自分の足を踏み出した。

 この時代、トイレは紳士用と婦人用の2ヶ所に分かれ、家の端の場所に並んで設えられている事が多かったようだ。家も一般的な造りであり、私が向かうこちら側、台所に近い右側が紳士用、向かう奥、裏口に近い左側が婦人用トイレであり、婦人用には目隠しの為締め切りに出来る大きな木の扉が付いていた。その為私は先ず紳士用のトイレの前に達した。

今日の思い出を振り返ってみる

2020-10-29 09:42:51 | 日記

うの華 88

 お、お前なぁと、父は真剣な顔で私に迫って来た。とその時、「四郎!」襖の向こう側から父の名を呼ぶ祖父の声が響いた。その時の祖父の声は怒りを帯びていた。 「ちょっとこっち......

 良いお天気です。10月も早や月末に近付いてきました。

卯の花3 60

2020-10-27 10:09:29 | 日記
 あゝまたか。やはりあの人の息子である、と私は思う。

 今回の私は、分かっているのに引き止めるという言動が、あの今し方階段の方でそれを行っていた、祖父という人の子である事と、横に来た父の顔を見て思った。

 あちらでは、「父の父」と祖父の事を思ったが、今回も、分かっている筈なのに足止めする。そうして私に我慢の行を強いるという、『同じ事をするものだ。』、そう私の父に合点したり、うんざりもした。流石に親子だ。

『んもう、分かっているくせに。』

私は父を見上げて眉根に皺を寄せると渋い顔をした。

 父はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、知らなかったのだろう、はてなと言う言葉を口にした。お前、如何してここまで来たのだとか、父さん、これは祖父の事だが、に何か頼まれたのか?、など聞いて来る。しかも語り口が悠長だ。私は気が遠く成りそうになった。

 父のこの様子では、この先何時トイレに達する事が出来るのか分からない。時は金なり、そんな父の日頃の口癖なども頭に浮かんで来る。「時間を無駄にするな。」、そうだ!、今この一瞬たりとも私は無駄には出来ない!。事はひっ迫しているのだ。私は思った。

 私の身上げる父の顔は、如何にも普段通りで平然としている。否、少々あっけらかんとし過ぎた風情で、何思う所のない凡庸な顔付だった。すると、突如として私の内には、先程の祖父が私に対して行った仕打ちに対する怒りが怒涛の様に湧いて来た。私は目を怒らせると、まだ何か言いたそうに口を間誤付かせている父に向かって叫んだ。

「智ちゃんトイレなの!。」

おしっこ、何でも言って声を掛けないで。漏らせばいいと思ってるの!。そう畳みつける様に父に言うと、

「お父さんの馬鹿!。」

如何にも極め付きの様に、吹き出した怒りに任せて私は思いっ切り馬鹿!と父を怒鳴りつけた。

 お陰で私の父は良い面の皮となった。江戸の仇を…ならぬ、階段の祖父の仇を台所の父で、である。彼は私からの八つ当たりを真面に受けた見本のような状態となった。彼は私の最後に発した罵声の連打という物凄い攻撃に、うわっとばかりに肩を窄めると、首を縮めて、「申し訳ありません。」と、反射的に弱弱しい声を発すると物の見事に項垂れた。

うの華3 59

2020-10-27 09:10:47 | 日記
 台所を歩き出すと、庭に向いた窓辺で父と母が間近に向かい合い、2人立っているのが見えた。両親はにこやかに笑い声を立てて楽しそうに話し合っている様子だ。珍しい事だと私は思った。あの2人が声に出して談笑するなど、私には初めてみる心地がした。
 
 が、私は彼等に近付くに連れて、その笑いが愉快な物では無く、嘲笑であるらしい事に気付いた。父が母さんもなぁと言うと首を傾げ、話をする相手の母から顔を逸らすと、皮肉っぽい彼の笑いを彼の後方である私の方へと漏らしたからだ。その言葉を受けた母も、ほんとにと言って笑ったが、私がその笑顔をよく見ると、苦しそうであり、その笑顔の皺には人を見くびった様な影が浮かんでいた。私はそんな様子の2人に気付くと、つい俯いてしまい、表情が曇ってしまった。が、次に私が目を上げると、こちらに視線を向ける父の目と私の目が合ってしまった。父は明らかに私の姿や表情を確認した様子だった。彼は驚いた様に目を見開いていた。
 
 この時、必要に迫られた私は否応なく2人の傍に歩み続けなければならなかった。が、本来の私なら、この様な雰囲気の彼等に近付きたくはなかった。
 
『母さんというからにはお祖母ちゃんの事だ。』
 
私は両親の話題が祖母の事だと感じ取ると、何だか嫌な気がしていた。父は祖母の事を嘲っているのだ、私が大好きな祖母の事を、と思う他に、私の父が自分の母の事を馬鹿にして話題にしているのだ、と考えると、今迄日頃、公明正大を謳い、正直や正義等、聖人君主めいて放言していた彼が、何だか自らの虚飾を今その場で剥がし、醜い姿でそこに立っているように見え、シュンとして心が冷え込む物を私に感じ取らせた。
 
 それでも、立ち止まりかけた私の足を、私は踏み出し歩み続けなければならない。そんな緊急の状態にあるのだ!。本当に否応なくだ!。私はその事を自らに感じていた。私は仕方なく歩み続けた。元々現況では早足になれなかった私だが、それでも、山々歩みを遅くしたい気分には十分なっていた。
 
 そんな時だ、私が両親2人の傍に辿り着く前に、裏庭の開いた戸口の向こう側から「姉さん!、姉さん!…。」と、母を呼ぶ慌てふためいた祖母の声が聞こえて来た。母はハッとした様子で、はいと答えると、振り向きざまに裏口へと駆け出して行った。お陰で台所の明るい中庭に面した窓辺には、私の父1人が残った。
 
 私は台所から母が1人減った事で、それ迄感じていた重く沈んだ自分の気持から自分の心の上に載った重石が外れて、ふわっと浮き上がる様な軽い気分になったと感じた。私にとっては、目の前の通り過ぎなければならない難所から、忌むべき者の数が減ったのだ。
 
 『もう少しだ!。』
 
私は急いで父の傍を通り過ぎるのだと、無理をして少し早く足を踏み出した。パタパタ…。と、そんな私が彼の横を通り過ぎるという事に、今更のように気付いたという感じで、父は「お前何処へ行くんだ。」と問い掛けて来た。

今日の思い出を振り返ってみる

2020-10-27 09:03:10 | 日記

うの華 87

 「私の…?!。」私の嫌味に父は驚いていたが、真面目に何事か考え出したようだ。「それでは、お母さんに聞いてみないとな。」考えながら私に同意を求める様に父は言った。私はに......

 良いお天気です。青空が広がっています。最近はスムージーにはまっています。マイブーム。お家ブームです。