花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

映画「グレート・ミュージアム」サクッと感想。

2017-01-30 23:26:02 | 映画

経費予算が少なすぎる、という嘆きはウィーン美術史美術館でも同じなのだなぁ、と思ったのは映画「グレート・ミュージアム」。世界に名だたる美術館がオークションでセリ落とせないなんて!! ということで、遅ればせの感想をサクッと(^^ゞ

別にカラヴァッジョが登場しないからと辛口になる訳ではないが、宝物館(クンストカンマー)改修再オープンまでを中心に、美術館のバックヤードとスタッフのお仕事を淡々と紹介する映画だったような気がする。彼らの小さなエピソード(例えば、退職が迫った武器コレクション館長とか)が連なっているのだが、拮抗するようなドラマや名画紹介も殆ど無いので、ブリューゲルやティツィアーノ作品が目の前を横切っても、「きゃ~♪」と大喜びすることもなく、意外に平静に見ることができた(^^ゞ

ピーテル・ブリューゲル《バベルの塔》(1563年)ウィーン美術史美術館

もちろん、オープニングが市庁舎(への寄託作品)《マリア・テレジアと四人の息子たち》から始まるように、この美術館がハプスブルグ家のコレクションを引き継いでいることを観客の私たちも美術館側も十分に認識している。「ハプスブルグ展」が米国ではあまり受けなかったけど日本では大成功だった、とかもあったしね(笑)。まぁ、アメリカ・ファーストでは自国以外の歴史など興味ないのは宜なるかな、だけど(^^;; 

それにしても、私的に一番眼が惹かれたのは、総館長のザビーネさんがとってもオシャレでカッコ良かったこと!! いやぁ~、これからも頑張って欲しいものです。 

ということで、ウィーン美術史美術館の「紹介映画」としてはそれなりの面白さはあるのだが、私のように期待し過ぎてはいけない映画だとも思ったのだった(^^;;;


映画「グレート・ミュージアム」が。

2016-12-12 21:59:46 | 映画

久々に映画を観に行ったら、近日上映予定のポスター群の中に…えっ?!

映画「グレート・ミュージアム(The Great Museum)-ハプスブルグ家からの招待状」が仙台でも上映されるようだ。恥ずかしながら、ウィーン美術史美術館が映画になったことを初めて知ってしまった(^^ゞ。カラヴァッジョ作品も登場するのだろうか?? 楽しみだわ~♪♪ 

ちなみに、最近は自国の美術館を映画にするのが流行なのだろうか?? もし、日本なら…西美よりも東博の方だろうね、と思ってしまったのだけど(^^;;


映画「カラヴァッジョ」

2008-05-05 04:26:46 | 映画
有楽町朝日ホールのイタリア映画祭2008で映画「CARAVAGGIO(カラヴァッジョ)」を見てきた。okiさん情報に感謝!
(2006年/137分 監督:アンジェロ・ロンゴーニ(Angelo Longoni) )

映画はバロックの天才画家ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョの波乱に満ちた生涯を描く。地元イタリア製作だから時代考証もしっかりしているし、当時の絵画制作の様子も映像として再現されており興味深い。


映画「カラヴァッジョ」から 

意外だったのは、このロンゴーニ監督作品ではカラヴァッジョの自己抑制のきかない直情的な性格を強調するのではなく、女性への愛が暴力を生んでいくという肯定的な側面を描き込んでいる。それにより、あまねく共感を呼ぶキャラとして立ち上がり、安心して見られるまっとうな映画となっていた。カラヴァッジョ役のアレッシオ・ボーニもメイク効果でよく似ていたし、本人以上に背が高くてカッコ良いし(笑)。よかったね、ミケーレ(^^;;

が、「まっとう」な映画故にやや単調に感じてしまったことも否めない。それはデレク・ジャーマン監督「カラヴァッジオ」をどうしても想起するからだ。しかし、画家を自らに引き寄せて描いたジャーマンの強烈な個性とは違うジャンルの作品だと思えば、個々のデテールが燦然と輝き始める。愛する神は細部に宿り給う。

以下、ネタバレも含む。と言っても、日本公開は2010年(没後400年)の前半に延期になったので、読んでも記憶が遠くなるから大丈夫でしょう(^^;;

さて、映画はポルト・エルコレへ向かう小船のシーンから始まった。熱で苦しむカラヴァッジョが魘されながら、幼き日父と祖父を襲ったペストの死臭を思い出す。黒馬に乗った黒騎士姿の「死」が少年の脳裏に刻まれる。多分、ロンゴーニ監督はカラヴァッジョの「死」観を画家の複雑な個性の要因として捉えようとしたのではないかと思う。

それはローマに出てきたカラヴァッジョがマリオ・ミンニーティと親しくなったシーンでも描かれる。テベレ川辺に打ち捨てられた腐臭のする死体をわざわざ観察しようとするカラヴァッジョ。その後もベアトリーチェ・チェンチの斬首、ジョルダーノ・ブルーノの火刑など、当時のローマでは「死」が身近であり、また権力と結びついた暴力も巷に溢れていたことが描かれる。《ホルフェルネスの首を斬るユディット》や《ゴリアテの首を持つダヴィデ》などの作品へと展開すると指摘したかったのだろう。以前サイトで考察したことがあるが、特に殺人を犯した後は顕著だったと思う。


《ホルフェルネスの首を斬るユディット》(1599年)

で、カラヴァッジョを巡る女性たちだが、何と言っても絶えず保護を与え続けてくれたカラヴァッジョ侯爵夫人コンスタンツァ・コロンナ。ラヌッチョ(後にカラヴァッジョが殺人を犯してしまう相手)の愛人であり高級娼婦のフィリーデ(肖像画や、絵のモデルもした)やレーナなど、画家は彼女たちを愛し、彼女たちもこの天才的画家を愛した。男世界では乱暴者だが、多分、カラヴァッジョは女性たちには誠実だったんじゃないかと思う。

でも、やはり私的に興味深いのは画家カラヴァッジョのパトロンたちであった。なんと言ってもデル・モンテ枢機卿とジュスティニアーニ侯は外せないし、パウルス5世やシピオーネ・ボルゲーゼも。(ボルゲーゼの二人は肖像画や彫刻にそっくりだった/笑)

ダルピーノ工房を出て細々と絵を売っていた画家はメディチ家のローマでの代理人であるデル・モンテ枢機卿に呼ばれ、パラッツォ・フィレンツェに住み込むことになる。映画ではコンスタンツァ・コロンナが枢機卿に依頼してカラヴァッジョを保護してもらったように描かれていた。これって本当だろうか?脚色??
加えて、さすがイタリア映画だと感心したのは、当時のローマ教皇庁内でフランス派とスペイン派が対立していた図式をしっかりと描いていることで、デル・モンテ枢機卿がフランス派であることもきちんと触れてある。

さっそく枢機卿は《いかさま師》の披露パーティを開くが、招待客の中にローマ画壇の保守派ズッカリや、何とヤン・ブリューゲルまでが!映画のカラヴァッジョはヤンに父ブリューゲルの絵は素晴らしと褒める。事実ヤンとローマで出会う可能性は極めて大きかったと思うけど、ピーテル・ブリューゲルの絵を見知っていただろうか?確かにドーリア・パンフィーリやカポディモンテにはあるけど…??それよりも、私的には静物画を得意とする二人の会話をもっと発展させてほしかったなぁ。>監督


《いかさま師》(1594年頃)

このパーティ・シーンは絵画好きにはかなり面白い。記憶が曖昧なのだが(パウルス5世との謁見シーンと混同があったらお許しあれ)、絵画と彫刻について尋ねられたカラヴァッジョは「ダ・ヴィンチの《最後の晩餐を》観たことがありますか?人物たちには生き生きとした魂が込められている」と絵画擁護をしていた。うん、確かにミラノでしっかり観察したに違いないし、《エマオの晩餐》への影響もあるし、レオナルドから得たものは大きいと思う。
それに、会場ではジョルジョーネやティツィアーノの名も出て、特にカラヴァッジョにジョルジョーネの影響を見る感想は私的にとても興味深かった。加えて「デューラーは天才だと言われているが…」などと興味深い会話も飛び交い、監督はきっと楽しんで撮っていたに違いない(笑)。

で、この映画のひとつの山場はやはりコレンタレッリ礼拝堂の《聖マタイの召命》と《聖マタイの殉教》だと思う。アトリエで寝込んだ画家が描いた《聖マタイの召命》に陽光が差し込んだのに気が付く。聖なる光は現実の光と一体となり、画面は一層輝きを増す。


《聖マタイの召命》部分(1599-1600年)

このマタイ連作でローマが画壇に実力を認められた画家は、傑作を次々と描きながらも喧嘩や放蕩を繰り返すことになる…。その挙句、よく知られているように喧嘩が発端の殺人(ラヌッチョ殺し)を犯し、死刑判決によりローマからの逃亡が始まる。ナポリ~マルタ~シチリア~ナポリ…
そして、恩赦の希望を持ってローマに向かう途中、ポルト・エルコレで黒馬に乗った死神を見る。

う~ん、感想文後半はかなり端折ってしまったかも(汗)。映画の後半にもカラヴァッジョ作品を画像処理により人物を重ね合わせながら紹介する面白い映像が見られたりするのだけど。未見の方たちは楽しみにしていてね(^^;;

最後に、興味深かったシーンを二つほど紹介しよう。

・ローマに出てきた頃、悪党仲間で絵画泥棒をするシーンがあった。盗んだ絵はジョヴァンニ・ベッリーニの祭壇画じゃなかったか?装飾から見てもサンタ・マリア・フラーリ三翼祭壇画中央部のような気がするのだ。ヴェネツィアではなく、ローマで何故??という不思議なシーンだった。

・カラヴァッジョがアトリエを借りるシーンがあり、天井からの光が必要だと屋根に穴を開けてしまう。これは最近発見されたホセ・デ・リベラのローマでのアトリエ賃貸契約書に、家主が天井に穴を開けてもかまわないとの契約条項を入れており、当時のカラヴァッジェスキの光の取り入れ方がわかる興味深いシーンであった。

映画は137分という結構長丁場で内容も盛りだくさんだった。私の感想もかなり長すぎたようで、ネタバレも多すぎたらお許しあれ(^^;;;

「美の美」 画家カラヴァッジオの犯罪

2006-05-15 01:18:40 | 映画
拙サイトの掲示板に書いた内容をそのままブログに再録します。(手抜きかも(^^;;;)

以前、めるがっぱさんや桂田さんにご紹介いただいた吉田喜重監督「美の美」カラヴァッジオ篇2本を「ポレポレ東中野」で観てきました。
・画家 カラヴァッジオの犯罪Ⅰ ―殺人の果ての写実性―(24分)
・画家 カラヴァッジオの犯罪Ⅱ ―シチリア・マルタ島への逃避行―(24分)
http://www.mmjp.or.jp/pole2/binobi.html

解説は四方田犬彦氏で、何と!吉田監督・岡田茉莉子ご夫妻ご臨席でした(・・;)
四方田氏の解説にもありましたが、1970年代にCARAVAGGIOを日本のテレビ番組で扱ったこと自体の先見性には驚いてしまいます。仙台の田舎育ちの管理人は見る統べもありませんでしたが…(涙)

さすがに映像は重厚で、吉田監督自身のナレーションがCARAVAGGIOという画家に光を当てながらズームアップにより浮き彫りにしていきます。ローマからシチリア、マルタへ、カメラは逃亡する画家を追って行きますが、管理人も追っかけた道程でしたので感慨深く見てしまいました。
映像で紹介されたのはフランチェージ教会の「聖マタイと天使」「聖マタイの召命」「聖マタイの殉教」、ポポロ教会「聖ペテロの磔刑」「聖ペテロの回心」&カラッチ作「聖母被昇天」、ボルゲーゼ美術館「病めるバッカス」「蛇の聖母」「ゴリアテの首を持つダヴィデ」「果物籠を持つ少年」、シチリアはメッシーナ美術館「ラザロの蘇生」「羊飼いの礼拝」、マルタは聖ヨハネ聖堂「書物をする聖ヒエロニムス」「洗礼者聖ヨハネの斬首」…だったと記憶しております(多分)。

管理人がなるほどと思ったのは、監督が、CARAVAGGIOは召命や回心を人間の内面に一瞬起こった出来事として写実的に描くことにより、反宗教改革の枠中に居ながら、宗教とは個人の内面的なものであると考え、カトリックの枠を超えた普遍的宗教感を持っていた(管理人の意訳)との指摘でした。画家の「写実性」が反宗教改革のカトリック側体制に取り込まれて行くことにより、画家自体の「実」体が暴力や犯罪として闇の中に失われて行く…(これも管理人の意訳かも)

上映の後に四方田犬彦氏の解説トークがあったのですが、これもまた実に濃い内容で面白く、明日また掲示板でレポートします。

映画「モーターサイクル・ダイアリーズ」

2005-09-07 03:16:03 | 映画
映画「モーターサイクル・ダイアリーズ」と「フィデルとチェ」をDVDで立て続けに観た。
http://www.herald.co.jp/official/m_cycle_diaries/

アルゼンチンの医学生エルネストは、親友アルベルトと中古のおんぼろバイクに乗り南米大陸を縦断する冒険の旅に出る。その大陸を縦走する熱き冒険心とアルベルトとの友情、旅で出会う人々との触れ合い…そこから見据えて行く南米の現実と向き合う心の成長、そんな諸々が観ている私の心を暖かく揺らした。「モーターサイクル・ダイアリーズ」は青春ロードムービーとして優れた作品だと思う。

一昨年モスクワに行った時、赤の広場へ続く地下道にTシャツを売る店があった。店頭で見かけたゲバラTシャツ。ゲバラは20世紀の革命アイコンなのかもしれない。資本の自由化されたロシアで革命家が商品化されていることになにやら皮肉なものを感じた(^^;
でも、私はエルネストの後の姿である革命家チェ・ゲバラを良く知らない…。故にTSUTAYAの棚で「モーターサイクル・ダイアリーズ」の隣に並んでいた「フィデルとチェ」を観ることにした。しかし…

「フィデルとチェ」はフィデル・カストロを主役にしたキューバ革命を描いた映画だった。アメリカ資本が独裁政権と結託して島を経済的に支配する。真の独立を求めてゲリラ戦を始めるフィデル、そしてそこに参戦するチェ・ゲバラ。しかし、そこに描かれる世界はやるせない。理想に燃えた革命運動も結局は同じような粛清を伴う独裁政権に取って代わった、とこの映画は言いたいようであった。ここでのゲバラは過激さだけが強調されている。クレジットを読むと2002年アメリカ映画。確かに英語を話すフィデルとチェであった(苦笑)

製作する側の視点の違いによるものか、描かれたゲバラの印象もまた異なる。どうも登場人物たちに対するリスペクトの違いによるもののようにも思われる。私には製作者たちの志の違いまで見えてきたような気がした。