福島県立美術館「伊藤若冲展」(後期)を観た感想をサクッと。
京都の大火(「天明の大火」1788年)で被災した伊藤若冲(1716-1800)の負けじ魂が、展覧会の「若冲はわれらと同時代人である。」という惹句に込められ、展覧会構成の第5章では「若冲、新生する」と題し、被災後の若冲作品を通し、福島で観ることの意味深さを感じる展覧会であった。(展示作品目録はこちら )
さて、今回の展覧会では個人蔵作品や米国美術館出展作品が多く、なかなか観ることの難しい若冲作品が集まった貴重な展覧会であったと思う。また、彩色画よりも水墨画作品が中心ではあったものの、それ故か、一層若冲の持つ多彩な魅力を再認識できるものでもあった。
やはり、若冲と言えばその繊細緻密かつ超写実的彩色が想起されるが、オープニングから《白鶴図》《鸚鵡図》《老松鸚鵡図》と若冲ならではの技巧を駆使した彩色画が眼を楽しませてくれた。しかし、今回の彩色画の呼びもののひとつは絹本著色《百犬図》(個人蔵)であろう。
伊藤若冲《百犬図》(1799年)個人蔵
仔犬と言ったら丸山応挙♪だと思うのだが、若冲の仔犬もそれぞれ異なるポーズで愛らしい。応挙の仔犬は無邪気なじゃれ合いが可愛いのだが、若冲の仔犬はふにゃふにゃ感があり、むんぎゅと掴まえたくなる面白さがある。単眼鏡で子細に観ると、全ての仔犬に細く毛筋が描き込まれていて、思わず、サスガ若冲!と唸ってしまった。群鶏図を多く描く若冲としては仔犬は珍しい題材かもしれない。
で、今回の展覧会では米国のフィラデルフィア、ミネアポリス、デンバー、キンベル美術館、サンフランススコ・アジアの各美術館からも出展されていた。特にミネアポリス美術館はバーク・コレクションで有名なメアリー・バークの出身地ということで、METへの寄贈作品とは別に、若冲の良品が所蔵されていることも知った。
キンベル美術館からは懐かしい《福禄寿》と(当時展示されていなかった)《猿猴捉月図》が展示されていた。
伊藤若冲《猿猴捉月図》(1770年頃)キンベル美術館
母猿の手に掴まり水面に映る月を捉えようとする子猿を描く。木蔦に掴まる母猿の腕から子猿の腕へと、視線を誘導する縦長の構図が面白い。洗練されたシンプルな水墨筆使いも見事だ。
デンバー美術館《菊花図》は筋目描きの妙とともに、「動植綵絵」の《菊花流水図》構図に似た菊花の浮遊感が面白い。
伊藤若冲《菊花図》デンバー美術館
今回観たのは後期とあって、前期の西福寺《蓮地図》(以前観たことがある)の代わりに京都国立博物館(海宝寺旧蔵)《群鶏図障壁画》(1790年)が展示されていて、さすが、障壁画はスケールがちがうなぁ~!と感じ入った。
https://www.kyohaku.go.jp/jp/syuzou/meihin/kinsei/item08.html
障壁画の空間を疑似体験できる面白さもあったが、やはり描かれた展鶏図が、全体構成として観ても、各障壁作品として観ても、格調高く実に魅力的であり、晩年の若冲の気概が滲み出ているように思えた。
まとまりのないサクッと感想になってしまったが、京都の大火の被災後もめげなかった若冲の軌跡をあらためて辿る貴重な展覧会だったと思う。