花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

2016年プラド美術館「ジョルジュ・ド・ラ・トゥール展(Georges de La Tour. 1593 - 1652)」サクッと感想(2)

2021-02-09 20:38:35 | 展覧会

フォートワースのキンベル美術館は多くの珠玉作品を所蔵展示しているが、その中でも圧巻は、左にカラヴァッジョ《いかさま師》、中央にフランス・ハルス《ロンメルポット奏者》、右にジョルジュ・ド・ラ・トゥール《クラブのエースを持ついかさま師》が並ぶ一面の壁だと思う。

カラヴァッジョ《いかさま師》(1595年頃)キンベル美術館

https://www.kimbellart.org/collection/ap-198706

ジョルジュ・ド・ラ・トゥール《クラブのエースを持ついかさま師》97.8×156.2cm(1630-34年頃)キンベル美術館 

https://www.kimbellart.org/collection/ap-198106

プラド美術館の展覧会にはこのキンベル《クラブのエースを持ついかさま師》と共に、ルーヴル美術館《ダイヤのエースを持ついかさま師》も展示されていた

ジョルジュ・ド・ラ・トゥール《ダイヤのエースを持ついかさま師》106×146cm(1635-38年頃)ルーヴル美術館

https://www.louvre.fr/en/oeuvre-notices/cheat-ace-diamond

カラヴァッジョ《いかさま師》を起源するこの2作品だが、私的に今まで別々に観ていたものの、キンベル作品とルーヴル作品を同時に見比べることのできる初めての体験だった。それに、この展示室(コーナー)に入るやメトロポリタン美術館《女占い師》が目に飛び込んでくるし、これら色鮮やかな「昼の絵」3枚が同じ空間に並ぶ様は、否が応でも興奮してしまうじゃぁありませんかっ!!

ということで、先ずは登場人物たちの意味深な目配せが実に面白い《いかさま師》2枚を子細に観察してみる。持つ絵札の違いだけでなく全体的な色調、すなわち各登場人物たちの衣装の色構成や細部が異なるのがとても興味深い。キンベル作品は衣装が赤系の鮮やかな彩色ではあるが、ややラフな表現描写が目立つ。一方、ルーヴル作品ではオレンジ茶系の衣装と女中の青緑のシックな色調となり、更に練られた細部描写も見られる。私的に特に注目したのは鴨?少年の瀟洒な衣装であり、上着の絹の光沢表現、襟の刺繍や袖口の襞部分の描写等、ルーヴル作品の方がより丹念に描かれ、完成度はより高いように思われた。

ところで、カタログに興味深い記述があった。(意訳・誤訳はお許しあれ)

「《クラブのエースを持ついかさま師》の独特なパレットは非常に派手で多様であり、色の明るさと滑らかな明るい肌のトーンを引き出す白の配色がある。 それは、1620年代後半のヘンドリック・テル・ブルッヘンによる特定の絵画を想起させる。例えば、1626〜27年頃のゲッティ美術館《バッカント》、1627年のロンドン・ナショナル・ギャラリー《合奏》などだ。後者には、いかさま師のポーズに似た人物も含まれている。 私たちに背を向けているが、鑑賞者を前方に導いているのだ。一方ダイヤのエースを持ついかさま師》は「夜の絵」に近い、より暗いパレットを持っている。」

近年、テル・ブルッヘンを追いかけ、ラ・トゥールやフェルメールへの影響を見る私としては、確かに!と頷いてしまう。ヘンドリック・テル・ブルッヘン(Hendrick Jansz ter brugghen, 1588 -1629年)はユトレヒト(オランダ)からローマに赴き、カラヴァッジョ作品から影響を受けたユトレヒト・カラヴァッジェスキを代表する一人である。

ヘンドリック・テル・ブルッヘン《猿のいるバッカント》(1627年)J.P.ゲッティ美術館

https://www.getty.edu/art/collection/objects/726/hendrick-ter-brugghen-bacchante-with-an-ape-dutch-1627/

ヘンドリック・テル・ブルッヘン《合奏》(1626年頃)ロンドン・ナショナル・ギャラリー

https://www.nationalgallery.org.uk/paintings/hendrick-ter-brugghen-the-concert

年代測定において、 アンソニー・ブラント(Anthony Blunt:ソ連のスパイとして有名)は「仮説としてネーデルラント連邦共和国(オランダ)への2回の訪問を想定し、1616年から25年頃の間に年代を測定することを提案した。」(カタログ解説より)

ラ・トゥールが絵画修行のために、ロレーヌからアルプスを越えイタリア(ローマ)に行くよりも、ネーデルラントのユトレヒトに行く方が確かに地理的にも現実味はある。もしそうならば、テル・ブルッヘンや「夜のゲラルド」として知られるヘリット・ファン・ホントホルスト(Gerrit van Honthorst ,1592- 1656年)からの影響が色濃く見えるのも了解できる。しかし、私的にも年代的な疑問は残る

2作品の科学的分析によれば、ルーヴル作品がキンベル作品より遅いことを示唆しており、現在、両美術館の年代表記では、キンベル作品が1630-34年頃、ルーヴル作品が1635-38年頃、となっている。そうすると、キンベル作品よりルーヴル作品の完成度の高さが了解できるし、ラ・トゥールの「昼の絵」から「夜の絵」への移行期間作品としても捉えることができるようだ。

ということで、次回に続く