国立西洋美術館「内藤コレクション 写本-いとも優雅なる中世の小宇宙」展を観た感想をサクッと書きたい。6月に観たのに、すっかり遅ればせの感想文となってしまった。
https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2024manuscript.html
2019年秋の版画素描展示室の「写本」展を観て、内藤コレクションの概要を知ったつもりだったが、今回の展覧会ではその膨大なコレクション内容に驚いてしまった。内藤裕史氏のコレクション形成への情熱がその一枚の零葉からも伝わって来るようだった。
オープニングは内藤氏が最初に購入した作品のひとつ《詩編零葉》が展示されていた。
《詩編零葉》フランス北部、パリあるいはアミアン司教区(?)(1250-60年)
装飾もシンプルで色遣いも抑えた上品な零葉で、内藤氏が惹かれたのもわかるような気がする。
展覧会の章立ては....
Ⅰ)聖書、Ⅱ)詩編集、Ⅲ)聖務日課のための写本、Ⅳ)ミサのための写本、Ⅴ)聖職者たちが用いたその他の写本、Ⅵ)時祷書、Ⅶ)暦、Ⅷ)教会法令集・宣誓の書、Ⅸ)世俗写本
それぞれの章の展示作品がほぼ年代順で、制作地(国・地方)も表記されていたので、年代が下るにつれ彩飾が美麗になっていく様や、国や地方によ彩飾の違いや、同時代における彩飾様式の国際化が伺えたり、私的にも彩飾写本の展開を勉強できる貴重な機会ともなった。
リュソンの画家(彩飾)《時祷書零葉》フランス、パリ(1405-10年頃)
上記↑のリュソンの画家の華やかな枠装飾など、いかにもパリの写本だなぁと思う。クリスティーヌ・ド・ピザン工房を想起させるものがある。
で、私的に嬉しかったのは《レオネッロ・デステの聖務日課書》零葉だった。
フランチェスコ・ダ・ゴディゴーロ(写字)、ジョルジョ・ダレマーニャ(彩飾)《レオネッロ・デステの聖務日課書》零葉(部分)イタリア・フェッラーラ(1441-48年)
レオネッロ・デステ(Leonello d'Este,1407-1450)時代の写本は麗しくもエレガントだったのだなぁとしみじみ見入ってしまった。というのも、ボルソ・デステ(Borso d'Este、1413–1471) 時代になると彩飾も過剰になるので、私的にレオネッロの趣味の良さに惹かれてしまうところがある。
それとは別に、下記↓のようなヘントやブルッヘを中心とした南ネーデルラントで流行した枠装飾の展開が面白い。
《時祷書零葉》南ネーデルラント(1500年頃)
解説には植物モチーフを散りばめたトロンプ・ルイユ風とあったが、私的には枠装飾の静物画的展開を見てしまう。例えばマリー・ド・ブルゴーニュの時祷書の画家の静物画的志向をも想起するのだが、自然観察とリアルな細密描写というネーデルラント的展開がとても興味深い。