ここ数カ月で見た黒澤明の代表作2作について
カズオ・イシグロのリメイク版で話題になっているLivingの原作を見たくなりました。
4月の初めの頃だったか黒澤明監督の「生きる」を借りてきて観ました。この白黒の映画に
戦後間もない作品にもかかわらず全く古さを感じられず、志村喬の目が訴える迫力に強烈な印象が
焼きついています。日本映画のすばらしさを改めて感じた作品でした。また出演者がすごくて
その後日本を代表する役者さんになった方たちばかりで、その若い時の姿を見ることもできました。
1952年製作/143分/日本
スタッフ
監督:黒澤明
製作:本木荘二郎
脚本:黒澤明、橋本忍、小國英雄
撮影:中井朝一
美術:松山崇
キャスト
渡邊勘治:志村喬
- 木村(市民課員、渾名は糸こんにゃく):日守新一(松竹)
- 坂井(市民課員、渾名はこいのぼり):田中春男
- 野口(市民課員、渾名はハエ取り紙):千秋実
- 小田切とよ:小田切みき
- 小原(市民課員、渾名はどぶ板):左卜全
- 齋藤(市民課主任、渾名は定食):山田巳之助
- 大野(市民課係長、渾名はナマコ):藤原釜足
- 渡邊喜一:小堀誠
- 渡邊光男:金子信雄
- 市役所助役:中村伸郎
- 患者:渡辺篤
- 医師の助手:木村功
- 医師:清水将夫
- 小説家:伊藤雄之助
- 渡邊たつ(喜一の妻):浦辺粂子
- スタンド・バーのマダム:丹阿弥谷津子
- 陳情の主婦:菅井きん
- 渡邊一枝:関京子
- 新聞記者:永井智雄
- ヤクザの親分:宮口精二
- ヤクザの子分:加東大介
時間をつぶしているだけで、生きた時間がない、生きているとは言えない役所での仕事。
無意味な忙しさの中で意欲を亡くしてしまっていた主人公が、自分の人生の残り時間が少ないと知り、
生きることに目覚める。無駄に使った人生を取り戻そうとする。胃がんと宣告された瞬間から
生き始め、自分のやるべきことを見つけてやり遂げ、静かな幸せの中、この世を去っていくという
映画の中に、何もしないことがいいことと言う役所の体質。そこは痛烈な批判がありました。
でもこの映画は志村喬なくてはありえない作品でした。
「夢」は直近にマリア・カラスの後で借りた映画です。
以前から見たかった黒澤映画の一つです。遺作かと思ったらそうではないのですね。
夏目漱石の名著『夢十夜』と同じメッセージから始まる黒澤明監督の8話オムニバス形式の映画。数ある黒澤明監督作品の中でも、
映像美にこだわった幻想的な作品で、この『夢』をもって黒澤明の映画が一つの大団円を迎えたと評する映画ファンも多い。
8つの物語は一見、何の関わりもないように思われるかもしれない。しかし、何度か見ていると物語一つ一つに込められた人生や
社会へのメッセージ、そして『夢』全体に込められた黒澤明の人生観・メッセージを感じることができる。“理解”ではなく“感じて”
ほしい映画なのだ。配給権を海外の映画会社が保有しているため、日本での上映が難しい作品だが、美しさにおいて史上最高の映画
と評される名画である。 市原栄光堂の商品説明より
心しかないという、黒澤明自身の思想を夢という形で巧みに分散させた、真の映画的美しさに満ちた作品である。(的田也寸志)
アマゾンより
ゴッホの所でショパンの雨だれが使われているけれど、最初アシュケナージの演奏を使いたかったけれど
許可がおりなかったとのことで、中村紘子さんにお願いしたらと言われてまさか中村さんにアシュケナージを
マネしてくれとは言えないと黒澤が語ったというエピソードが残っていることを知りました。
雨だれは好きで子供の頃少し練習をしていたことがありましたが、ゴッホの絵への追求のバックに、とても力強い曲に
なっていて、ぴったりだったと思いました。
私がこの作品を遺作のように思ったのは、まるで遺書のような作品だったからかしら・・
人間に対する警告。自然と共生し、核や戦争のない世界を願って。
人間が地球を猛毒物質の掃きだめにした。
自然破壊に対する警鐘。
最後の「水車」のロケ地は以前サイトウ記念コンサートで松本に行ったとき、友達と行ったところでした。
その時の子供たちの衣装はボロの展覧会で展示がしてあり、見たものでしたが、素晴らしい衣装です。
文明に対する痛烈な批判がここにはありました。
人間は便利なものほどいいと思い、本当にいいものを捨てている。
電気については、夜まで明るくては星が見えないと。
学者の中には自然の心がわからないものが多く、人間を不幸せにしているものを発明している。
自然が失われ、自分たちも滅ぼしていく。いい空気にきれいな水、それを作り出す木や草も失われ
ようとしている。汚された空気や水は人間の心まで影響してしまう。
よく働いて、よく生きて
ご苦労さんと言われて死ぬのはめでたい。
生きているのはいいものだ。おもしろい。
不思議な世界も・・・ そして木を切る人間へのお雛様からの嘆きの声が・・・
苦しい夢もあるが、最後に笠智衆があの調子で出てきて、人生を肯定的に終わらせる最後が
良かった。
タルコフスキーや黒澤が発する声をずっと途絶えさせないように引き継がれてほしい芸術です。
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