(トトロの指人形コレクション)
『日刊ゲンダイ』に書いている連載コラム「テレビとはナンだ!」。
このテレビ時評を読み直して、2010年を振り返る“年末特別企画”の3月編です。
この1年、テレビは何を映してきたのか。
2010年 テレビは何を映してきたか(3月編)
「カンテツの女」NHK
テレビの制作現場では、作業終了が朝になるのは日常茶飯事。完全な徹夜、いわゆる「カンテツ」だ。しかし、カンテツは業界だけの話ではない。他の業種にも、男女を問わず一睡もしないで夜を過ごす人たちがいる。そこに注目したのがNHK「カンテツの女」である。
この番組の特色は、登場する女性はもちろん、ディレクター陣も全員女性であること。カメラ持参で取材対象に密着するのだ。先週放送分の主人公は36歳の女性トラック運転手。大型トラックに重さ10~40㌔の荷物を200個も積み込み、三重県から千葉まで500㌔の道のりを走破する。
彼女にとってのトラックは寝泊まりする住居でもある。パーキングエリアでの入浴はわずか10分だが、洗車には2時間かけていた。また隣に座るディレクターとのやりとりの中で、なぜトラッカーになったのか、何を思って走っているのかなどが明かされる。女同士だからこその濃い話だ。
これまでに登場した「勤労女子」は美容師、居酒屋店長、介護福祉士など。いわゆる有名人ではなく、ごく普通の女性たちだ。それぞれがハードな日々を、さりげなく真剣に生きていた。番組は社会の断面を垣間見せてくれるが、教訓めいたことも言わず淡々と終わっていく。そこがまたいいのだ。同じニッポンの空の下、今夜もカンテツで働く素敵な女たちがいる。
(2010.03.01)
「卒うた」フジテレビ
4夜連続ドラマ「卒うた」(フジテレビ)を全部見た。連載小説みたいなワンクールの連ドラとも、書き下ろし長編に似た単発スペシャルとも違う、後味のいい短編集のような4本だった。
テーマはもちろん卒業。第1夜は志田未来主演で、恋愛と友達との友情の間で揺れる女子高生の話だ。微妙なニュアンスを一瞬の表情で見せる志田は当然上手いが、親友役の忽那汐里(ポッキーCMの娘)も大健闘である。
結婚を前にした娘と父の情景を描いた第2夜の主演は国仲涼子。平田満が一人で娘を育ててきた父親をきっちりと演じていた。第3夜は卒業間近の大学生カップルが登場。将来の夢と現在の恋愛という、彼らにとっての大問題にぶつかる。北乃きいの泣き顔が天下一品だ。
そして最終夜。仕事や私生活が思うようにいかないラジオのパーソナリティー(長澤まさみ)が主人公だ。故郷の田舎町で幼なじみと再会したことで、あらためて故郷を旅立っていく。長澤は、これまでのどの出演作より“いい味”を出している、と言いたいくらいの好演。地方ロケの映像も心地よかった。
1~3夜の中身は長澤がラジオでリスナーから募集したエピソードだったという設定も、流される卒業ソングも、あざとさを感じさせない抑制された演出で効果を生んでいた。3月の定番企画になればと期待したくなる。
(010.03.08)
「曲げられない女」日本テレビ
連ドラも最終回が目につく時期になった。日本テレビ「曲げられない女」も今週がラストだ。ヒロイン(菅野美穂)は自分の信念に忠実な32歳。9年越しの司法試験に挑戦中で、未婚ながら出産間近でもある。
このドラマの見どころは、一にも二にも菅野の“曲げられなさぶり”だ。納得がいかなければ会社を辞めるし、恋人とも別れる。また、「私たちが本当に戦わなければいけないのは弱い自分自身なんじゃないの!」てな具合に、自分の思うところをはっきり口にする。なかなか立派だ。ただ毎回、突然大声を張り上げ早口でまくしたてるのには、やや閉口。せっかくの信念の発露もヒステリックな感情の暴発に見えてしまうのだ。
そんな“信念のひと”も男選びに関してはイマイチかもしれない。妊娠した子どもの父親である弁護士(塚本高史)とは長いつき合いだが、客観的に見て相当軽いのだ。菅野に「自分の子どもを産んでほしい」と言いつつ、若い秘書(能世あんな)と結婚寸前までいく。
ふと「キイナ」を思い出した。菅野演じる不可能犯罪捜査官は自分の観察眼とひらめきに自信を持つ女だ。逆に周囲の人の言葉には耳を貸さない。今回もそれに似ているが、信念を曲げない生き方と単なる意固地は違うはず。その辺りがこのドラマだと微妙なのだ。どうする?どうなる?最終回。
(2010.03.15)
「のりものテレビ」テレビ東京
期末の特番ウイークが続いている。番組表には派手な長時間スペシャルが並ぶが、実状はレギュラー番組の拡大版ばかり。新規企画を考える手間はいらず、視聴率の歩留りが読め、何よりリーズナブルだからだ。そんな中、テレビ東京が思わずニヤリとしたくなる特番を流した。「のりものテレビ~働くのりもの、ヘンなのりもの37連発SP」だ。
登場するのは文字通り異色の乗り物。バックできない飛行機を牽引するクルマがある。新幹線輸送車の後輪はリモコンで別の動きをしてカーブを見事に曲がっていく。「青いタカアシガニ」と呼ばれる巨大クレーン車の運転席は高さ20メートルの位置にある。かと思うと、坂の町・長崎の住民用モノレールは高齢者の足となっている。高知の土佐神社では移動式の賽銭トロッコが大活躍だ。
この特番には大物司会者はいない。スタジオのひな壇芸人もいない。ナレーションの大竹まことと南海キャンディーズの山崎亮太がいるだけ。主役は、あくまでも乗り物たちなのだ。そう、最近すっかり人気番組となった「空から日本を見てみよう」の成功パターンである。
特番もタレントに頼らず企画で勝負。その心意気や良し、としたい。実際、親子はもちろん、大人の男が一人で見ても十分楽しめた。「サンダーバード」のテーマ曲が繰り返し流れていたのもご愛嬌だ。
(2010.03.29)
*テレビ時評としての「記録性」保持のため、
文章はすべて新聞掲載時のままにしてあります。