北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、2013年の総括をしています。
今年の放送界を振り返って
連ドラ、ヤラセに「喝!」
連ドラ、ヤラセに「喝!」
気がつけば、この1年を振り返る時期だ。将来、放送の歴史が書かれるなら、2013年は「あまちゃん」(NHK)と「半沢直樹」(TBS-HBC)の年だったとされるだろう。
それほどこの2本は突出していた。評価についてはこの欄でも書いてきたので繰り返さない。ただ、近年低迷ばかりが言われてきたテレビドラマに、遅ればせながら「喝!」が入れられたことは記しておきたい。
主演の役者が先行して決められ、何を作るのかが後回しにされる傾向。奥行きのない物語と薄っぺらな人物像。制作者のこだわりが感じられない演出や映像。それらを排し、プロフェッショナルが精魂込めて作ったドラマは、見る人たちの気持ちを動かし、多くの支持が得られることを証明したのだ。
だからと言って、急にすべてのドラマが「あまちゃん」や「半沢直樹」になるはずもない。実際、秋クールの連ドラ全体の低調ぶりは目を覆うばかりだ。だが、諦めてはいけない。あの2本に触発された新たな作品がきっと現れる。そう信じて来年に期待したい。
ドラマ以外では、「ほこ×たて」(フジテレビ―UHB)のヤラセ問題を挙げなくてはならない。ガチンコ対決を標榜するこの番組は、小学生から大人まで親子で楽しめる良質なエンターテインメントとして高く
評価され、数々の賞も受賞してきた。
ところが、出演者による告発でヤラセが発覚した。「どんな物でも捕えるスナイパー軍団vs.絶対に捕らえられないラジコン軍団」で、射撃による対決の順番を入れ替えるなど事実と異なる内容を流したというのだ。
また、猿とラジコンカーの対決では、猿の首に釣り糸を巻いてラジコンカーで引っ張り、猿が追いかけているように見せていた。特に後者など動物虐待とも言うべき誤った演出だ。本来なら対戦が成立しなかった段階でボツにすべき内容を、自己都合でねじ曲げたわけである。
さらに罪深いのは、ヤラセがあった回の影響で過去の真剣勝負までが疑いの目で見られてしまったことだ。それまでスポットライトが当たらなかった町工場の職人技など、「モノづくり日本」の底力をバラエティーの形で見せてくれていた功績も損なわれかねない。
最終的には視聴者のテレビに対する信頼を裏切る結果となった。
かつての関西テレビ「発掘!あるある大事典Ⅱ」のデータねつ造事件から何を学んだのかを強く問いたい。
来年の課題はクリエーティブ・パワー(創り出すチカラ)の再発見ではないだろうか。
(北海道新聞 2013年12月02日)