何だか、急に涼しくなってきました。
夏の終わりかもしれません。
つい最近まで「暑いなあ」と言っていたのに、それが終わりとなると、ちょっと寂しく感じる。
人間なんて勝手なものですね(笑)。
「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。
ハラルト・ギルバース:著、酒寄進一:訳 『ゲルマニア』
集英社文庫 1188円
本邦初訳であるこの小説の主な舞台は、1944年初夏のベルリン。ノルマンディー上陸作戦決行の6月6日まで、後1ヶ月という日曜日から物語は始まる。
かつての敏腕刑事、オッペンハイマーはナチス親衛隊に連行される。ユダヤ人である彼は命の危険を感じたが、秘密裡に命じられたのは娼婦を狙った連続猟奇殺人の捜査だった。少ない手掛かり。微妙な立場。広がる一方の戦禍。だが、オッペンハイマーは緊迫した状況の中で、徐々に真相へと近づいていく。
本書はドイツ推理作家協会賞新人賞受賞作。戦争ミステリーの佳作であり、戦時下の市民がどのように生きていたかを鮮やかに描いている点でも画期的だ。
コロナ・ブックス編集部:編 『作家の珈琲』
平凡社 1728円
いわば“作家たちが愛したもの”シリーズの最新刊だ。喫茶店で『ひょっこりひょうたん島』の台本を書き続けた井上ひさし。山口瞳とロージナ茶房。常盤新平が通った明石屋。植草甚一が常備茶と呼んだ緑缶のMJBコーヒー。読後は喫茶店へ走るか、自分で淹れるか。
荒川洋治 『文学の空気のあるところ』
中央公論新社 2160円
現代詩作家による講演録だ。高見順、詩人の山之口獏、さらに知る人ぞ知る小説家である結城信一や石上玄一郎が語られる。洒脱な語り口の底流にあるのは、人間の核となる部分にこそ突き刺さる、文学に対する畏敬の念だ。“昭和の本棚”の豊かさを再認識する。
写真:岡崎勝久、文:常井健一
『保守の肖像~自民党総裁六十年史』
小学館 1404円
自民党初代写真室長のカメラが写し取った、21人の総裁たち。岸信介から安倍晋三まで、内側からだからこ そ捉えることが出来た素顔がここにある。興味深いのは、1989年の宇野宗佑から、風貌も存在感も明らかに変わってくることだ。写真のチカラ、恐るべし。
(新潮書評 2015.08.27号)