碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

週刊朝日で、「ど根性ガエル」についてコメント

2015年08月03日 | メディアでのコメント・論評



 今期ドラマは人気漫画の実写化が話題を集めていた。

 その一つが、映画化で大ヒットした「デスノート」(日本テレビ系・日曜22時30分)。顔を知る人間の名前を書けば、その相手を死に至らしめる「デスノート」をめぐり、大学生の夜神月(やがみライト)と名探偵Lの対決を軸にしたサスペンスもので、初回は16.9%と好発進が、3話目は8%台にまで失速。

 ドラマライターの田幸和歌子氏は、L役の山崎賢人が残念だという。

「映画版で松山ケンイチが演じたLのインパクトが強烈だっただけに、山崎さんの演技が薄っペラに見えてしまう。今時ビジュアル系だって、あんなチープなメイクはしないです」

 酷評は相次ぐものの、主演の窪田正孝がフルーツサンドを差し入れて、現場は和気あいあいとしているという。

「期待は薄かったのですが、“デスノート”を偶然手にしたことで、凡人だった月が翻弄され、殺人鬼になっていく心理描写が丁寧に描けている。窪田さんの演技力は圧巻です」(田幸氏)

 一方、原作から16年後という大胆なアレンジをしたのは松山ケンイチ主演の「ど根性ガエル」(日本テレビ系・土曜21時)。30歳になり母親に寄生するニートのひろしが、Tシャツに貼りついた平面ガエル・ピョン吉に支えられて立ち直る姿を描く人情劇だ。

「ひろしがニートになった理由など、現代人が抱える闇を描きながらも笑いに包んでいて人間ドラマとして楽しめる。さすがヒューマンモノに定評のある岡田惠和氏の脚本です」(TVコラムニストの桧山珠美氏)

 高い評価もあるが、往年のファンは怒り心頭だと上智大学の碓井広義教授(メディア論)は言う。

「ニートになったひろしやバツイチでグレた京子ちゃんなんて見たくない。どうして今ドラマ化して、原作の世界観を壊してしまうのか。ピョン吉の声を演じる満島ひかりの熱演が光りますが、ストーリーが大事なドラマでCGと声が注目されるのでは本末転倒です」


 初回は13.1%を記録したものの、2話目で8.5%に急降下している。

「最近は視聴者の目が肥え、ドラマの良しあしの判断が早い。1話目で引き込んで2話目で横ばい以上の視聴率をとらないと、右肩下がりになってしまう傾向があるのです」(ドラマ制作関係者)

(週刊朝日 2015年8月7日号より抜粋)


村上春樹さんの「親切心」

2015年08月03日 | 書評した本たち



仕事の合間に、村上春樹さんの『村上さんのところ』(新潮社)を、パラパラと読んでいます。

どこから読んでもいいし、どこでやめてもいいので、“ちょっと一休み”にぴったりなんですね。

何ヶ所かで、「親切心」という言葉に遭遇しました。

たとえば、「相手にメッセージを送る時に意識している事は何ですか?」という質問に対し、「親切心です。それ以外にありません」。

また、「どれくらい推敲するのでしょうか?」という質問への回答の中で、「推敲は僕の最大の趣味です。(中略)推敲においてもっとも大事なのは、親切心です」と。

気づいていない「親切心」が、他のページにもあるかもしれません。

うーん、親切心かあ、面白いなあ、などと思いながら読んでいると、あっという間に時間が過ぎてしまうので、危険です。

そもそも、この本自体が、村上さんの、読者への親切心の産物でした。




「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。

渡辺京二 『気になる人』
晶文社 1620円

著者が気になるという9人が登場する対談集だ。小さな本屋の女性店主。ミカン栽培をしながら絵を描き続けている兼業画家。共通するのは著者と同じく熊本在住であること、そして瞠目すべき取り組みをフツーに行っていることだ。文化が生まれる「場所」を知る。


鹿島 茂 『大読書日記』
青土社 3888円

週刊誌連載の書評エッセイ、15年分である。対象は純文学から漫画まで300冊を超え、厚さ4㌢の大部だ。一冊でも気になる本を見つけたら、それで十分元は取れる。前書きに曰く、「理由は聞くな、本を読め」。読書本来の醍醐味と知の悦楽がここにある。


藤吉政春 『福井モデル~未来は地方から始まる』
文藝春秋 1404円

地域経済の低迷や過疎化など、地方に関する暗い話題は多い。しかし、福井県はちょっと違う。低い完全失業率、い障害者雇用率、小中学校の全国テストで上位、女性就業率の高さも目立つ。本書は、いくつもの「なぜ?」を手掛かりに、地域再生のヒントを探る。

(週刊新潮 2015.07.30号)