佐野眞一さんの近刊『沖縄戦いまだ終わらず』(集英社文庫)。
2008年、佐野さんは『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』で、軍用地主や沖縄ヤクザなど、それまでタブー視されていた沖縄の暗部に斬り込みました。
その後も、沖縄問題の原点とも言うべき「沖縄戦」に目を向け、丹念に取材を続けます。この文庫本の元本である『僕の島は戦場だった~封印された沖縄戦の記憶』(13年刊)は、その成果でした。
中身は、濃厚にして重いです。援護法や遺族年金の実態と欺瞞。PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しみ続ける戦災孤児たち。さらに、悲惨な「集団自決」の深層にも迫っています。
文庫化で加わったのが、昨年11月の沖縄県知事選のルポです。基地問題を考える上でも必読の一冊だと思います。
「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。
小田嶋 隆 『友だちリクエストの返事が来ない午後』
太田出版 1512円
東日本大震災以来、すっかり定着した「絆」。SNSの普及で勝手に侵入してくる「友だち」。本来、友人とは何なのか。その数が少ないことは罪なのか。微苦笑のコラムニストは、強迫観念と化した友情原理主義と向き合う。繋がり過ぎない生活も悪くないのだ。
河出書房新社編集部:編 『戦争はどのように語られてきたか』
河出書房新社 2052円
石原莞爾や大川周明から、中野重治、吉本隆明、加藤典洋まで約20名の戦争論が並ぶアンソロジーだ。「戦争にも正義があるし、大義名分があるというようなことは大ウソである」と坂口安吾は言う。“戦争のできる国”へと改造が進む今だからこそ読むべき一冊。
萩原魚雷 『書生の処世』
本の雑誌社 1620円
ぐうたら生活と著者は言うが、ひたすら本を読み、本について書く、修行僧のような年月が詰まった一冊。書評エッセイというジャンルからもはみ出し、「論」ではない人生を語っている。書生というより、本と共に生きる“活字バカ一代”。こんな男がいてもいい。
柴田哲孝 『下山事件 暗殺者たちの夏』
祥伝社 2160円
著者が、ノンフィクション『下山事件 最後の証言』で日本推理作家協会賞と日本冒険小説協会大賞を受賞したのは10年前だ。昭和24年7月5日、国鉄総裁の身に何が起きたのか。本書では小説という器を最大限に生かし、事実に基づく精緻でリアルな物語を展開する。
(週刊新潮 2015.08.06号)