北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、夏ドラマについて書きました。
猛暑に負けなぬ夏ドラマは?
笑いと風刺両立の「民王」
全国的な猛暑が続いている。しかも安保法案、新国立競技場問題など、精神的にも疲労度の高い夏だ。せめてテレビドラマくらいは心の涼を提供して欲しい。
しかし、夏ドラマがスタートしてみると、別の意味で寒くなるようなものが並んでいる。代表格は、いつの時代の恋愛ドラマかと不思議になるほど、既視感のある場面展開が暑苦しい「恋仲」(フジテレビ―UHB)だ。「あまちゃん」バブルの福士蒼汰が主演、演技力に疑問符がつく本田翼がヒロインというキャスティングの弱さも隠しようがない。
また往年の人気アニメを実写化した「ど根性ガエル」(日本テレビ―STV)は、Tシャツに張りついた平面ガエル、ピョン吉の声を担当する満島ひかりの天才的上手さと、高度なCG技術だけが目立つ珍品。ニートでだらだらしたひろし(松山ケンイチ)や、離婚して不貞腐れている京子ちゃん(前田敦子)に、見る側は困惑するばかりだ。
一方、そんな中で絶好調なのが、ヒットシリーズとなった「花咲舞が黙ってない」(日本テレビ―STV)である。「お言葉を返すようですが・・」という言葉をきっかけに、舞(杏)が見事なたんかを切るのは、水戸黄門の印籠のようなものだ。一話完結で見終わって清々しい作りは、まさに夏向きだろう。
そして、「花咲」と同様、池井戸潤の小説を原作とするのが「民王(たみおう)」(テレビ朝日―HTB)だ。時の総理大臣(遠藤憲一)と、その不肖の息子(菅田将暉)の心が、突然入れ替わってしまうという破天荒な設定だが、話が外交など国家レベルにまで発展するあたりが大いに笑える。
基本的には政治や権力をめぐるドタバタコメディでありながら、一種リアルな風刺劇になっている点が秀逸だ。この夏一番の清涼剤かもしれない。
もう一本、意外な佳作がある。それは「表参道高校合唱部!」(TBS―HBC)で、香川県小豆島から東京の私立高校に転校してきた合唱好きの女子生徒(芳根京子)が、廃部寸前の合唱部の再建に奔走する物語だ。
このドラマの良さは、劇中の歌に本物感があり、仲間と歌う合唱の楽しさが伝わってくること。さらに芳根をはじめ、森川葵、吉本美憂、志尊淳など“新たな波”を感じさせる若手俳優たちの競演である。特に、単なる表層的な美少女ではなく、地に足のついた骨太な少女像を体現している芳根に注目したい。変化球の「民王」と並んで、猛暑に負けない元気が出る、直球勝負の青春ドラマだ。
(北海道新聞 2015年08月03日)