碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

ペプシCM なぜ桃太郎の物語なのか?

2015年08月04日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム



日経MJ(流通新聞)に連載しているコラム「CM裏表」。

今回の掲載分では、ペプシストロングゼロ「桃太郎」の新作を取り上げました。


サントリー食品インターナショナル「ペプシストロング ゼロ」

古くて新しい桃太郎の物語

物語CMの傑作として定着した、人気シリーズの最新作だ。今回スポットが当たるのは桃太郎の仲間であるキジ。

力で一族を支配していた兄のカラスが鬼の仲間となった上、自らも鬼と化してしまう悲劇が語られる。圧倒的な想像力と映像で生み出されるのは、炎の戦場である。

それにしても、なぜ桃太郎の物語なのか。理由としてまず挙げられるのは、多くの人が常識として共有する、日本一有名なストーリーとキャラクターだということだ。

次に、昔の和歌(本歌)を自作に取り込んでいく技法、「本歌取り」の伝統に則った作品であること。

さらに、近年当たり前になった、先行する創作物のキャラクターを利用した「二次創作」にも該当する。つまり、古くて新しいクリエイティブの形がここにあるのだ。

自分より強いヤツを倒すには、仲間の存在が不可欠。友情・努力・勝利は「週刊少年ジャンプ」のモットーでもある。桃太郎たちの戦いの旅は続く。

(日経MJ 2015.08.03)


笑いと風刺両立の「民王」

2015年08月04日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、夏ドラマについて書きました。


猛暑に負けなぬ夏ドラマは?
笑いと風刺両立の「民王」

 全国的な猛暑が続いている。しかも安保法案、新国立競技場問題など、精神的にも疲労度の高い夏だ。せめてテレビドラマくらいは心の涼を提供して欲しい。

 しかし、夏ドラマがスタートしてみると、別の意味で寒くなるようなものが並んでいる。代表格は、いつの時代の恋愛ドラマかと不思議になるほど、既視感のある場面展開が暑苦しい「恋仲」(フジテレビ―UHB)だ。「あまちゃん」バブルの福士蒼汰が主演、演技力に疑問符がつく本田翼がヒロインというキャスティングの弱さも隠しようがない。

 また往年の人気アニメを実写化した「ど根性ガエル」(日本テレビ―STV)は、Tシャツに張りついた平面ガエル、ピョン吉の声を担当する満島ひかりの天才的上手さと、高度なCG技術だけが目立つ珍品。ニートでだらだらしたひろし(松山ケンイチ)や、離婚して不貞腐れている京子ちゃん(前田敦子)に、見る側は困惑するばかりだ。

 一方、そんな中で絶好調なのが、ヒットシリーズとなった「花咲舞が黙ってない」(日本テレビ―STV)である。「お言葉を返すようですが・・」という言葉をきっかけに、舞(杏)が見事なたんかを切るのは、水戸黄門の印籠のようなものだ。一話完結で見終わって清々しい作りは、まさに夏向きだろう。

 そして、「花咲」と同様、池井戸潤の小説を原作とするのが「民王(たみおう)」(テレビ朝日―HTB)だ。時の総理大臣(遠藤憲一)と、その不肖の息子(菅田将暉)の心が、突然入れ替わってしまうという破天荒な設定だが、話が外交など国家レベルにまで発展するあたりが大いに笑える。

 基本的には政治や権力をめぐるドタバタコメディでありながら、一種リアルな風刺劇になっている点が秀逸だ。この夏一番の清涼剤かもしれない。

 もう一本、意外な佳作がある。それは「表参道高校合唱部!」(TBS―HBC)で、香川県小豆島から東京の私立高校に転校してきた合唱好きの女子生徒(芳根京子)が、廃部寸前の合唱部の再建に奔走する物語だ。

 このドラマの良さは、劇中の歌に本物感があり、仲間と歌う合唱の楽しさが伝わってくること。さらに芳根をはじめ、森川葵、吉本美憂、志尊淳など“新たな波”を感じさせる若手俳優たちの競演である。特に、単なる表層的な美少女ではなく、地に足のついた骨太な少女像を体現している芳根に注目したい。変化球の「民王」と並んで、猛暑に負けない元気が出る、直球勝負の青春ドラマだ。

(北海道新聞 2015年08月03日)