碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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ドラマ「下町ロケット」が描く、技術者たちの底力 

2015年11月04日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、ドラマ「下町ロケット」について書きました。


連続ドラマ「下町ロケット」
物語、役者、演出がそろう
 

民放の10~12月期の連続ドラマが出そろった。恋愛物から医療物まで多彩な企画が並んでいるが、今期の真打ちと呼べるのは「下町ロケット」(TBS-HBC)だ。

原作は池井戸潤の直木賞受賞作。脚本・八津弘幸、音楽・服部隆之、プロデューサー・伊與田英徳、演出・福澤克雄の「チーム半沢(直樹)」が、期待通りの本格ドラマに仕上げている。

魅力の第一は、起伏に満ちた骨太なストーリーだ。ロケットエンジンの開発研究員だった佃(阿部寛)が、打ち上げ失敗の責任をとって辞職したのは7年前。今は父が遺した町工場の社長を務めている佃を、経営的危機が連続して襲う。

突然、取引先から取引中止を言い渡され、ライバル企業からは特許侵害で訴えられ、さらに巨大メーカーが特許の売渡しを迫ってくる。しかも社内には、利益に直結しない研究開発費を投入し続けることへの不満もくすぶっている。佃はこの内憂外患をどう乗り切っていくのか。

次に、隅々にまで気を配った絶妙なキャスティングだ。主演の阿部寛は、ヒット映画「テルマエ・ロマエ」と同じく、このドラマでも堂々の座長芝居を見せている。

身に覚えのない特許侵害で被告席に立たされた佃が怒りを込めて叫ぶシーン。「たとえこの裁判に負けたとしても、特許を奪われたとしても、屁でもありません。培ってきた技術力だけは決して奪えない。正義は我にありだ!」。

中小企業であるがゆえに悔しい思いをしている町工場は多い。全国の技術者たち、モノを作る人たちの思いを代弁した名台詞だ。

脇役も一筋縄ではいかない。佃製作所の経理部長に、昨年の「ルーズヴェルト・ゲーム」で注目された落語家の立川談春。ライバル企業の顧問弁護士が池畑慎之介。そして佃側の弁護士は恵俊彰。

また特許を狙う巨大メーカーの敏腕部長にミュージシャンの吉川晃司、その部下が若手演技派の新井浩文だ。それぞれが自分の役割をよく理解し、ドラマ全体に寄与しながら、自身の存在感も示している。

加えて、聞き覚えのある声による朗々たるナレーションは、元NHKの松平定知アナウンサーだ。「半沢直樹」の山根基世もそうだったが、今回も物語に重厚感を与えている。

ドラマで最も大切な要素である物語(脚本)。それを体現する優れた役者(演技)。そしてメリハリの効いた緩急自在の演出。アベノミクスならぬ、ドラマ作りの3本の矢が、「いいドラマが見たい」という視聴者の気持ちの真ん中を射抜いたのである。

(北海道新聞 2015年11月02日)