碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

昭和45年11月25日から、ちょうど45年

2015年11月26日 | 本・新聞・雑誌・活字
四谷から富士山を望む


1970年11月25日、三島由紀夫自決。

昭和45年に、45歳で亡くなってから、ちょうど45年になります。

今年も、四谷キャンパスの研究室から見える、市ヶ谷の防衛省(旧市ヶ谷駐屯地)に向かって、合掌しました。

毎年この日は、その年に出版された“三島本”を読みます。

今回は、佐藤秀明:編『三島由紀夫の言葉 人間の性(さが)』(新潮新書)。

さまざまな作品からの抜き書き、引用を、男女、世間、国家などの項目で括った、いわば箴言集です。

最後に置かれてるのは、有名な、そして今も生きている、あの文章でした。

私はこれからの日本に大して希望をつなぐことができない。このまま行ったら「日本」はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする。日本はなくなって、その代わりに、無機質な、からっぽの、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済大国が極東の一角に残るのであろう。それでもいいと思っている人たちと、私は口をきく気にもなれなくなっているのである。

(「サンケイ」夕刊 1970年7月7日)



秋ドラマの隠れた佳作「コウノドリ」

2015年11月26日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」

今回は、TBS「コウノドリ」について書きました。

TBS系「コウノドリ」
リアリティーの追求が十分な効果を生んでいる

「下町ロケット」の大ヒットで影が薄くなっているが、同じTBS系の隠れた佳作としてオススメしたいドラマがある。「コウノドリ」だ。

まず、主人公である鴻鳥サクラ(綾野剛)のキャラクターが興味深い。患者の気持ちに寄り添い、出産という大事業をサポートしていく優秀な産科医だ。

しかも天才ピアニスト(病院にはナイショ)という別の顔も持つ。実の親を知らずに育つ中で、自分の思いをピアノで表現することを知ったのだ。

この謎の部分が人物像に奥行きを与えている。毎回の読み切り形式だが、一組の夫婦の症例を軸にしながら、他の患者たちの妊娠や出産をめぐるエピソードも同時進行で織り込んでいく。

思えば、妊娠・出産は病気ではない。だから健康保険などは適用されない。しかし、さまざまなリスクを伴うことも事実。産科には日常的に生と死のドラマが共存するのだ。この構成は、「ゲゲゲの女房」などの脚本で知られる山本むつみの手柄である。

産科医にもわからないことはあるし、出来ないことも多い。当然のことだ。だが、鴻鳥はその当然を真摯に受けとめ、自分たちに何が出来るかを徹底的に考えていく。

生まれたばかりの新生児も含め、毎回本物の赤ちゃんが多数登場するのもこのドラマの特徴だ。リアリティーを追求する制作陣のこだわりであり、十分な効果を生んでいる。

(日刊ゲンダイ 2015.11.25)