碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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ポストセブンで、「散歩番組」について解説

2015年11月13日 | メディアでのコメント・論評



出演者の知性、教養、人柄問われる散歩番組 
高田純次は最適


散歩ブームの火付け役、地井武男さん(享年70)亡き後も増え続ける散歩番組。タモリ(70)、有吉弘行(41)、マツコ・デラックス(42)など、各局とも人気タレントを起用する力の入れようで、この秋からは高田純次(68)もそれに加わった。なぜどの局も散歩番組を作りたがるのか。

上智大学教授(メディア論)の碓井広義さんはその理由をこう話す。

「テレビ業界には『5匹目まではドジョウがいる』といわれるくらい、一つの企画が当たると他局もそれに追随しようとします。散歩番組が増えているのは、他が当たっているからうちもやろう、という何匹目かのドジョウ狙いなんです。こういう時代ですから、低予算で番組を作れるというのも大きな理由の一つです。

散歩番組が世の中に支持されているのは、日常の中の小さな冒険を一緒に体感できるからだと思います。ゆるく、気ままに、ぶらぶらと歩くだけなので、日ごろ雑務に追われてなかなか旅行に行けないという人でも、『散歩なら自分でもできるんじゃないか』という気にさせられます」


散歩というのは、するのは簡単だ。ただし面白く見せるためには、タレントに相応の実力が必要なのだという。

「散歩中に出会う一般の人たちは、タレントの振りにどう返してくるのかが読めません。そこが面白いところなのですが、予定調和にならないので、タレントの知性、教養、人柄が問われます。

そういう意味では、高田純次さんのキャスティングは絶妙だと思います。散歩タレントとしての資質を備えているうえに、“いい加減”キャラ。散歩そのものがいい加減なものだから、キャラとコンセプトが合致します。高田さんは、関心がないものははぐらかして次のものを見る。そういうテキトーさがある高田さんは、“ミスター散歩”だと思います」(碓井さん)


高田純次の『じゅん散歩』は、地井武男さんの『ちい散歩』、加山雄三(78)の『若大将のゆうゆう散歩』と続いてきたテレビ朝日の朝の散歩番組の3代目にあたる。新たな散歩マスターとなるか。

「散歩番組の元祖は、1992年にスタートした『ぶらり途中下車の旅』(日本テレビ系)だと思います。『ちい散歩』は散歩番組をより注目されるものとした、いわば中興の祖。『ちい散歩』がウケたのは、地井さんの人柄が活かされていたからでしょう。主体はあくまで街やそこに住む人たちなんですが、それを地井さんの目線で見られるところに楽しさがありました。

散歩番組はタレント本人が目立ちすぎてしまうと、散歩番組ではなくそのタレントのバラエティー番組になってしまいます。とはいえ後発の番組は、差別化を図るためにあえてタレントの素顔を見せようとするものもあります。『有吉くんの正直さんぽ』や『国分太一のおさんぽジャパン』(ともにフジテレビ系)はその例。『モヤモヤさまぁ~ず2』(テレビ東京系)は、さまぁ~ずと女子アナとのやり取りも見どころの一つになっています。

他と大きくコンセプトが異なるのは、マツコ・デラックスさんの『夜の巷を徘徊する』(テレビ朝日系)。街の人たちの人生を掘り下げることも多く、ドキュメンタリーの要素もあります」(碓井さん)


バラエティー豊かになってきた散歩番組だが、これからまだまだ増えるかというと、「今がピークでここからは淘汰が始まる」というのが碓井さんの見方。

番組はゆるくても、生存競争は激しくなりそうだ。


(ポストセブン 2015.11.10)