碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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11月の北海道新聞「碓井広義の放送時評」

2016年12月01日 | 「北海道新聞」連載の放送時評


秋ドラマで本領発揮
女優たちの代表作になるか!?

今期ドラマのナンバー1として、「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS-HBC)を挙げたい。津崎(星野源)とみくり(新垣結衣)は「契約結婚(事実婚)」だ。夫が雇用主で妻は従業員。「仕事としての結婚」という設定がこのドラマの核になっている。

みくりは大学院出だが、就職活動に失敗。家事代行のバイトで津崎と出会う。戸籍はそのままだが、住民票は提出した。業務・給料・休暇などを取り決め、家賃・食費・光熱費は折半。もちろん性的関係は契約外だ。回を追うごとに津崎とみのりの奇妙な同居生活から目が離せなくなっているが、それは2人が見せてくれる「誰かと暮らすこと」の面倒臭さと楽しさに、笑えるリアリティーとドキドキ感があるからだ。

みのりには自分が美人だという自覚がない。高学歴女子の知性も嫌みにならず、性格の良さと相まって天然風ユーモアへと昇華している。また、とらえどころのない男・津崎(星野が好演)にも、徐々に人間味が出てきた。とはいえ、相手に対する気持ちや意識が変われば結婚生活も危機を迎える。今後の注目は2人の“こころの距離感”だろう。

「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」(日本テレビーSTV)の設定も絶妙だ。舞台は出版社だが、「編集部」ではなく「校閲部」である。開始前、多少の不安はあった。本や雑誌の原稿の誤字・脱字、事実誤認などをチェックする、重要ではあるが縁の下の力持ち的役割だからだ。

しかし始まってみれば、石原さとみのパワフルな演技がすべてを凌駕している。校閲の守備範囲を逸脱する仕事ぶりにリアリティーうんぬんの意見もあるが、過剰と純情がヒロインのキャラクターだ。近年の石原は松本潤や山下智久の相手役といった立場で、完全燃焼とは言えなかった。だが今回は、「鏡月」のCMで表現した大人の女性の可愛らしさも、「明治果汁グミ」のCMで見せたコメディエンヌの才能も、思う存分解放していい。まさに本領発揮である。

「逃げ恥」も、「地味スゴ」も、ヒロインの魅力を支えているのは、よく練られた脚本と自在な演出だ。たとえば「逃げ恥」では、「情熱大陸」や「サザエさん」、さらにNHKの深夜番組までがパロディーの素材となっている。また、「地味スゴ」では校閲した文字が画面上で乱舞する。作り手の遊び心だ。もしかしたらこの2作、新垣と石原、それぞれの“セカンドデビュー”ともいえる、代表作の1本になるかもしれない。

(北海道新聞「碓井広義の放送時評」 2016年11月07日)

『ドクターX』は、“2つの進化”で今期も絶好調

2016年12月01日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、テレビ朝日「ドクターX~外科医・大門未知子~」について書きました。


「ドクターX~外科医・大門未知子~」
今期も絶好調の要因は何か

米倉涼子(41)主演の「ドクターX~外科医・大門未知子~」が、“失敗しない”どころか今期も絶好調だ。それを可能にしているのは何なのか。

ヒットシリーズが衰退する最大の原因は制作側の慢心だ。ストーリーはワンパターンとなり、出演者の緊張感が緩み、視聴者は飽き始める。シリーズ物こそ、現状維持どころか進化が必要なのだ。

今期、第一の進化は「登場人物」である。アクが強く、アンチもたくさんいる泉ピン子を副院長役に抜擢。“権力とビジネスの巨塔”と化した大学病院で、院長(西田敏行)との脂ぎった対決が展開されている。また、米国の病院からスーパードクターとして戻ってきた外科医・北野(滝藤賢一)の投入も有効だ。

さらに肝心の「物語」も進化している。先週の第7話では、当初、耳が聞こえない天才ピアニスト・七尾(武田真治)が患者かと思われた。だが、七尾は中途半端な聴力の回復よりも、自分の脳内に響くピアノの音を大事にしたいと手術を断る。大門はその過程で、七尾のアシスタント(知英)の脳腫瘍を見抜き、彼女の命を救っていくのだ。

この回の寺田敏雄をはじめとするベテラン脚本家たちが、「毎回、大門が手術に成功する」という大原則を守りつつ、より豊かな物語を模索している。その努力がある限り、「ドクターX」一座の興行は続行可能だ。

(日刊ゲンダイ 2016.11.30)