碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

ドラマ化された、柚月裕子の「佐方シリーズ」

2016年12月08日 | 本・新聞・雑誌・活字



書評サイト「シミルボン」に、以下のレビューを寄稿しました。

https://shimirubon.jp/reviews/1676314

ドラマ化された、柚月裕子の「佐方シリーズ」

先週末、ドラマスペシャル『検事の本懐』(テレビ朝日系)が放送された。原作は柚月裕子の同名小説。主人公の米崎地方検察庁検事・佐方貞人を演じたのは上川隆也だ。

小説がドラマや映画として映像化された時、演じる役者が、自分のイメージとズレていることは多い。原作と映像作品は別物ではあるが、それでも違い過ぎると結構、落胆。時には怒り、だったりする。

上川隆也の佐方貞人は、今回で第3弾。すっかりハマリ役となってきた。継続は力なりだ。

ただ、これから原作小説を手に取って読もうとする時、人によっては、上川の顔がちらついて嫌だと思うかもしれない。そんなハタ迷惑も、映像化にはあるのだ。

というわけで、『検事の本懐』より前にドラマ化されている、柚月裕子の佐方シリーズ2冊を、ご紹介。もちろん、上川隆也さんの顔を思い浮かべる必要は、ありません(笑)。


柚月裕子『検事の死命』(宝島社)

『検事の本懐』で大藪春彦賞を受賞した著者。検事・佐方貞人が活躍する4つの中編が収められている。

このシリーズの第一の魅力は佐方のキャラクターにある。いわゆるヒーロータイプではない。じっくりと考え慎重に行動する。

また、人間を見る目が確かで、他者の心情の奥まで量ろうとする。弁護士だった亡き父の無念にからむ作品「業をおろす」などはその好例だ。

次に、検事としての矜持に拍手を送りたい。時に内外からの圧力を受けながら、「罪をまっとうに裁かせることが、己の仕事」だと言い切る。

その戦いぶりは、地元出身の大物代議士や地検幹部を相手に一歩も引かない「死命を賭ける」と「死命を決する」の2作で描かれている。上司や同僚など、脇役たちも実にいい味だ。


柚月裕子『最後の証人』(宝島社)

女性検察官・庄司真生の目から見て、その事件の真相は明らかだった。現場はホテルの一室。被害者は医師の妻である高瀬美津子だ。

彼女を刺殺した島津邦明は会社経営の傍ら陶芸教室を主宰していた。二人は不倫関係にあり、事件は愛憎のもつれが原因。負けるはずのない裁判だった。

島津側の弁護士は、元・検事の佐方貞人だ。仕事の依頼を受ける基準は一つ。事件が面白いかどうかだった。今回も、あらゆる要素が犯人であることを示唆する島津が、容疑を否認していることに興味を持ったのだ。

公判では真生の厳しい追及が続く。佐方は劣勢に次ぐ劣勢だが、なぜか真生は安心できない。その予感通り、やがて裁判は誰もが思いもしなかった方向へと進み始める。

「このミステリーがすごい!」大賞作家らしい、絶妙なストーリー展開の法廷サスペンスだ。

日米開戦から75年 合掌  2016.12.08

2016年12月08日 | 日々雑感
ハワイ・オアフ島 パールハーバー



展示されている人間魚雷「回天」


定番ドラマにこそ必要な進化と挑戦

2016年12月08日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、「定番ドラマ」について書きました。


定番ドラマ 
飽きさせぬ進化と挑戦

定番ともいえるヒットシリーズが衰退する時、最大の要因は制作側の慢心にある。ストーリーはワンパターンとなり、出演者の緊張感が緩み、ドラマ作りは縮小再生産と化す。視聴者を飽きさせないためにも、シリーズ物にこそ進化と挑戦が必要なのだ。

今期、「ドクターX〜外科医・大門未知子」(テレビ朝日―HTB)における第一の進化は「登場人物」である。まず、アクが強く、アンチファンも多い泉ピン子を副院長役に抜擢した。“権力とビジネスの巨塔”となった大学病院で、院長(西田敏行)との脂ぎった対決が展開されている。また、米国からスーパードクターとして凱旋帰国した外科医、北野(滝藤賢一)の投入も功を奏した。

さらに肝心の「物語」も進化している。たとえば第7話では、当初、耳が聞こえない天才ピアニスト・七尾(武田真治)が患者かと思われた。しかし、七尾は中途半端な聴力の回復よりも、自分の脳内に響くピアノの音を大事にしたいと言って手術を断る。大門はその過程で七尾のアシスタント(知英)の脳腫瘍を見抜き、彼女の命を救っていくのだ。

この回の寺田敏雄をはじめとするベテラン脚本家たちが、毎回、「大門が手術に成功する」という大原則を守りながら、密度の高い物語を構築している。こうした努力がある限り、このシリーズの続行は可能だろう。

一方、単発ドラマでは、11月19日にNHK・BSプレミアムで放送された、横溝正史原作「獄門島」に見応えがあった。これまで何度も映像化され、何人もの俳優が探偵・金田一耕助に扮してきた。特に市川崑監督作品の石坂浩二、ドラマ版での古谷一行の印象が強い。だが今回、長谷川博己が演じた金田一に驚かされた。これまでとは全く異なる雰囲気だったからだ。石坂や古谷が見せた“飄々とした自由人”とは異なる、暗くて重たい、どこか鬱屈を抱えた青年がそこにいた。

背景には金田一の凄惨な戦争体験がある。南方の島での絶望的な戦い。膨大な死者。熱病と飢餓。引き揚げ船の中で金田一は戦友の最期をみとり、彼の故郷である獄門島を訪れたのだ。また事件そのものも、戦争がなかったら起きなかったであろう悲劇だった。

制作陣が目指したのは、戦争と敗戦を重低音とした“原作世界への回帰”であり、“新たな金田一像の創出”だ。長谷川博己は見事にその重責を果たした。次回作があるとすれば、ドラマの最後で暗示された「悪魔が来りて笛を吹く」だろうか。期待して待ちたい。

(北海道新聞「碓井広義の放送時評」 2016.12.05)