倉本聰 ドラマへの遺言
第10回
第10回
「知的財産奪取は
訴訟を起こしてもおかしくない犯罪だ」
訴訟を起こしてもおかしくない犯罪だ」
昭和40年代以前のドラマの映像が残っていない
碓井 「やすらぎの郷」の中で、よくぞ言ってくださったと思ったことのひとつは、「かつてのドラマの映像が残っていない」という事実でした。倉本先生にしては珍しく、「昭和48、49年より以前の映像は全部ないんです!」とセリフにビックリマークが付いている(笑い)。相当な怒りがあったってことですね。
倉本 それはもう僕らの知的財産を奪ったわけですから。僕は一昨年の16年、終活っていうのをやったんですね。不動産やら遺産やらわずかながらあるわけですが、その中でも最も大きな割合を占めているものは、知的財産権といっても過言ではありません。作品を創作した著者に帰属する著作権をはじめ、作品の再放送、付随する出版物に対する印税など、創作者の矜持として認められるべきものが、驚くことに、昭和48年以前の作品は映像が一切消えてしまっているわけです。
碓井 TBS出身の実相寺昭雄監督も生前、「放送局側に管理保存の意識がなく、その手間や費用を惜しんだんだよ」と憤慨していました。著作権者に断りもなく、作品を処分していたんですから乱暴な話です。
倉本 これはもう誰か訴訟を起こしてもおかしくない犯罪だと思っています。誰も起こしませんけどね。
碓井 もちろん視聴者も見ることができないわけで、大損害です。また、それと同じくらい先生の憤りを感じたのが、シナリオについての指摘。第63回で、「今のホン屋(脚本家)は人を書くことより筋を書くことが大事だと勘違いしている。視聴者は筋より人間を描くことを求めているんだけどな」と、菊村(石坂浩二)に言わせています。これは実感ですか。
倉本 実感ですね。筋と呼ばれる、いわば、おおまかな展開から描いてしまうと、人のことを考えていないから、化学反応が期待できない。
碓井 登場人物たちによる化学反応ですか。
倉本 AとBが出会った瞬間からしか考えないで、とりあえず、都合よく出会わせてしまえっていうね。役者でたとえるなら……最近の役者の名前知らねえからな。ええっと、昔の役者でいえば、ショーケン(萩原健一)と桃井かおりが出会うのと、草刈正雄と大原麗子が出会うのでは、役者同士だけ見ても違うと思うんですね。そこにおのおののキャラクターを考え、ぶつけ合った時にどんな出会いになるのか、化学反応が起きるのか。そこを考えるのがドラマ作りの中で一番面白い。まさにドラマ作りの醍醐味でもあるって僕は思っているんですけれど。そういう脚本家、今はどれだけいるんでしょうか。(つづく)
(聞き手・碓井広義)
▽くらもと・そう 1935年1月1日、東京都生まれ。東大文学部卒業後、ニッポン放送を経て脚本家。77年北海道富良野市に移住。84年「富良野塾」を開設し、2010年の閉塾まで若手俳優と脚本家を養成。21年間続いたドラマ「北の国から」ほか多数のドラマおよび舞台の脚本を手がける。
▽うすい・ひろよし 1955年、長野県生まれ。慶大法学部卒。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。現在、上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。笠智衆主演「波の盆」(83年)で倉本聰と出会い、35年にわたって師事している。
日刊ゲンダイ連載「倉本聰 ドラマへの遺言」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/3212
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