碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

「倉本聰 ドラマへの遺言」 第7回

2018年01月18日 | 日刊ゲンダイ連載「倉本聰 ドラマへの遺言」



倉本聰 ドラマへの遺言 
第7回

素人には藤沢周平の短編集を
脚色する課題を与えるべきだ

碓井 日本では「シナリオライター」と「脚本家」に2つの異なる役割があることは広く知られていません。制作サイドもどこまで線引きできているのか。

倉本 米国ではいまだにきちんと分業してます。ハリウッドのアカデミー賞の授賞式を見るとお分かりになると思うのですが、脚色賞が初めの方で呼ばれるのに対し、脚本賞は後半で発表される。

碓井 原作がある場合は「脚色賞」で、丸ごとオリジナルの場合が「脚本賞」。

倉本 「撮影台本」を書くっていう仕事は「ストーリー」を書く仕事とは別。ですので、ヤングシナリオ大賞を受賞したからといって、いきなり素人にオリジナル脚本を書かせるのはどだい無理な話。物語自体を書く仕事があって、その上で撮影台本を書く。それをゴッタにしているところに大きな課題を感じます。

碓井 オリジナルを書く実力を身につけるには修業が必要ですね。

倉本 ええ。もし新たにシナリオ賞をつくるのであれば、たとえば、藤沢周平の短編集を脚色しろっていう課題を与えたほうがいいですね。

碓井 最近も「北の国から」の杉田成道さんが、藤沢さんの「橋ものがたり」を映像化しましたね。藤沢作品は物語の骨格がしっかりしています。しかも、事細かな心理ではなく登場人物たちの行動が描かれていきます。その行間を読むように想像力を働かせるのは、とてもいい脚色の訓練になると思います。

倉本 そうでもしないと、本当のシナリオライターは育たない。それをいまのテレビ業界は全く分かっていないんです。

碓井 いわゆる倉本ドラマはベースとなるストーリーを作ったのも、それを撮影台本に変えたのも先生です。でも、その先には演出家や役者さんがいるわけですよね。最終的に視聴者が見るものと、もともとの脚本との間に落差が生まれたりしませんか。

倉本 その落差も予想しながら、織り込みながら書いているってことはありますね。

碓井 たとえば「やすらぎの郷」の中で、ちょっと気になった場面があったんです。藤竜也さんが演じる高井秀次(高倉健を思わせる、任侠映画などで活躍した寡黙な俳優)がやすらぎの郷に入居することになって、女性陣は喜ぶわけです。とはいえ10代、20代の女の子じゃないから、感情をむき出しにしてキャーキャー喜んだりはしないはず。それなりに見えもあるから、「あ、そうですか」って感情を抑える。本来なら内心の喜びがにじみ出ちゃうのがおかしいっていう表現にならなきゃいけないと思うんですが、オンエアを見たら、皆さん、ハシャギ回っていました(笑い)。

倉本 うーん、そう見えましたか。僕は、チャプリンの「人生はクローズアップで見れば悲劇。ロングショットで見れば喜劇」という言葉が喜劇の本質だと思っているんですよね。でも、碓井さんが違和感を持ったとすれば、それは女優たちのせいじゃない。大人のドラマとしてのニュアンスが十分に伝達できていなかったという意味で、僕のスクリプト(台本)が弱かったのかもしれないなあ。(あすにつづく)

(聞き手・碓井広義)

▽くらもと・そう 1935年1月1日、東京都生まれ。東大文学部卒業後、ニッポン放送を経て脚本家。77年北海道富良野市に移住。84年「富良野塾」を開設し、2010年の閉塾まで若手俳優と脚本家を養成。21年間続いたドラマ「北の国から」ほか多数のドラマおよび舞台の脚本を手がける。

▽うすい・ひろよし 1955年、長野県生まれ。慶大法学部卒。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。現在、上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。笠智衆主演「波の盆」(83年)で倉本聰と出会い、35年にわたって師事している。





ドラマへの遺言 (新潮新書)
倉本聰、碓井広義
新潮社




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石原さとみ 「アンナチュラル」は新感覚サスペンス

2018年01月18日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



「不条理な死」を許さないプロたちを描く
新感覚サスペンス

TBS系「アンナチュラル」第1話の冒頭。登場したのは石原さとみ(31)と市川実日子(39)だ。おお、映画「シン・ゴジラ」の最強女性陣じゃないか。再び大怪獣に挑むのか。いや、違う。彼女たちが闘う相手は「不自然な死(アンナチュラル・デス)」だ。

勤務先は「不自然死究明研究所(UDIラボ)」。法医解剖医の三澄ミコト(石原)は、警察や自治体が持ち込む遺体を解剖し、死因をつきとめる。科捜研の女ならぬ、UDIラボの女。この設定自体が新機軸だ。

最初の案件は突然死した青年の死因解明。警察の判断は「虚血性心疾患」(心不全)だったが、検査の結果、心臓には問題がなかった。薬物による急性腎不全の疑いが出てくるが、肝心の毒物が特定できない。そこに遺体の第1発見者で婚約者でもある女性が現れる。しかも彼女の仕事は劇薬毒物製品の開発で……。この後、予想外の展開が待っていた。

脚本は「逃げるは恥だが役に立つ」「重版出来!」の野木亜紀子だ。ミステリー性とヒューマンのバランスが絶妙で、快調なテンポなのに急ぎ過ぎない語り口が気持ちいい。

また役者たちが脚本によく応えている。石原は堂々の座長ぶりだし、同僚の一匹狼型解剖医・中堂(井浦新)の存在も効いている。

今後、ミコトと中堂の相互作用は期待大。「不条理な死」を許さないプロたちを描く新感覚サスペンスだ。

(日刊ゲンダイ 2018.01.17)

NHK「新春TV放談」で光った3人の話

2018年01月18日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



“ドラマ4話でキス”
NHK「新春TV放談」で光った3人の話

2日に放送されたNHK「新春TV放談2018」。NHK・民放を問わず、いまのテレビについて語り合うという内容で、今年でもう10回目となる。

司会は千原ジュニアと首藤奈知子アナ。パネリストとしてテリー伊藤、ヒャダイン、カンニング竹山らが並ぶが、今回はゲスト的な3人が光った。

「池の水ぜんぶ抜く」(テレビ東京系)が話題の伊藤隆行P。「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」(日本テレビ系)などの“お仕事ドラマ”をヒットさせた小田玲奈P。

そして元SMAPの3人が出演した「72時間ホンネテレビ」(AbemaTV)を仕掛けた、サイバーエージェントの藤田晋社長だ。

中でも伊藤Pの「脱・企画の保険」という話が刺激的だった。局内の会議で企画内容よりも視聴率確保の方策(=保険)ばかりが話題になることに反発したというのだ。


マーケティングに頼らず、自分たちの実感を大切にする姿勢が頼もしい。

また小田Pの「ドラマの中身はお仕事だけど、視聴者を引っ張るのに恋愛を使う」「4話でキス」などの発言はリアルだし、藤田社長の「テレビも視聴率以外の指標が必要な時代」という意見にも説得力があった。

番組の1000人アンケートでも、ドラマを放送時に見る人と録画で見る人はほぼ同数。今年はテレビのビジネスモデルの変革も待ったなしだ。

(日刊ゲンダイ 2018.01.10)