碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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2017年、CMが映し出したヒロインたち(下半期編)

2018年01月03日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


テレビ番組もさることながら、1年間に流されるCMの数は膨大なものになります。そんな中から、昨年印象に残ったCMとヒロインたちを記録しておこうと思います。今回は2017年の「下半期」編になります。


<広瀬すずさん>
大塚製薬 「ファイブミニ 恋よりセンイ。」


是枝裕和監督の『海街diary』が公開されたのは2015年6月。撮影当時16歳の広瀬すずさんが演じた、綾瀬はるかさんや長澤まさみさんの“腹違いの妹”が鮮烈でした。今年の春、高校を卒業したすずさんをヒロインにして、是枝監督が撮ったのがファイブミニのCMです。

故郷である静岡の友達と携帯電話で話しながら、自分の部屋に入ってきたすずさん。どうやら仕事が忙しくて、卒業式にも出られなかったらしい。

ふと鏡の中の自分を見ます。そこに映っているのは「素の広瀬すず」か、それとも「女優の広瀬すず」か。是枝監督ならではのドキュメンタリータッチの演出が際立ちます。

すずさんが部屋からベランダに出る。見えるのは東京スカイツリーではなく、どこか懐かしい東京タワーです。飲みかけのボトルをかざし、並べてみる。

タワーとボトル。ちょっと似た色です。見つめるすずさんの横顔が美しい。何かしら覚悟を決めた女性の表情です。もしかして恋より仕事? いえ、恋よりセンイだそうです。 


<有村架純さん>
WOWOW 「出会い」


駅のホーム。5つ並んだ椅子の両端に、若い男女(柳楽優弥さんと有村架純さん)が腰かけています。ただし、2人の離れ具合からすると、恋人などではなさそうです。

突然、男が「幸せなら手をたたこう」のメロディで、「♪フフフフン(鼻歌)に入ろかな。やっぱり、やめよかな」と歌い出しました。しばらく聴いていた女は、「すみません、そのフフフフンって何ですか?」と怪訝な表情で訊ねます。確かに「フフフフン」の部分は気になるのですが、彼女もちょっと変わってますよね。

すると男は、「逆になんだと思う?」と聞き返し、「俺にも分からないんだよ」と真顔で言います。こちらも相当変わっている(笑)。“とらえどころのない若者”を演じさせたら抜群の柳楽さん、まさに面目躍如です。

2人が待つ列車はまだ来ません。いや、本当に列車が来るのかどうかも分からない。今日は来ないが、明日は来るのかもしれない。まるで不条理劇の一場面を見ているようです。

そして閑話休題。今も「ひよっこロス」の皆さんは、大晦日のNHK「紅白歌合戦」に紅組司会者として登場する谷田部みね子、いえ有村架純さんを待ちましょう。


<湯川玲菜さん>
ハウス食品 「クリームシチューのライバル宣言」


舞台は夕暮れの校舎です。屋上に一人の女子高生(湯川玲菜さん)が現れます。しかも真剣な表情で、「皆さん、聞いて下さい!」と呼びかける。

演劇部に優れた仲間がいます。いつも圧倒されてきました。才能の差だと思っていました。でも、本当は努力の差だったのです。だから背中を追いかけるのは、もうやめる。これからは憧れの存在ではなく、ライバルだと決めた。つまり堂々の「ライバル宣言」です。

まるで青春ドラマのワンシーンのようですが、そうではありません。「あなたを超えて冬の主役になってみせる」と叫ぶ彼女、実は“クリームシチュー”だったのです。

そしてライバルは、なんと“お鍋”。冬の人気料理ナンバーワンの座を目指す野心作です。「擬人化」という手法のCMは珍しくありませんが、その徹底した作り込みに拍手です。

湯川さんは、秋元康さんが主宰する「劇団4ドル50セント」のメンバー。先行する“お鍋”たちを震撼させる、強力なライバルに成長しそうな新星です。


<上白石萌歌さん>
キリン午後の紅茶 「あいたいって、あたためたいだ。17冬」


冬の夕暮れ、都会にいる人のことが気になります。ビル街を吹き抜ける風の冷たさは格別ですもんね。

本当は一緒にいたいけど、それは出来ない。遠くにいる人を「あたためたてあげたい」と思うばかりです。見上げれば満天の星。その人もまた、星の見えない都会の夜空を見つめているかもしれません。

上白石萌歌さん(「君の名は。」「陸王」の上白石萌音さんは姉)と井之脇海さんが若い恋人同士を演じているシリーズCM。この新作では井之脇さんが都会へと旅立ち、萌歌さんは地元に残っています。

松本隆さんが作詞して、太田裕美さんが歌った「木綿のハンカチーフ」(1975年)を思わせるシチュエーション。徐々に都会の色に染まっていく彼と、別れを予感しながらも彼を気遣う彼女の対比が切なくて、今も忘れられない1曲です。

物語の舞台は熊本県南阿蘇村で、南阿蘇鉄道の見晴台駅もおなじみの場所です。萌歌さんが歩きながら歌うのは、スピッツの「楓」(98年)。この娘には悲しい別れが訪れないように、と祈りたくなります。温かい紅茶が、2人をつないでくれるといいね。

2017年、CMが映し出したヒロインたち(上半期編)

2018年01月03日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


テレビ番組もさることながら、1年間に流されるCMの数は膨大なものになります。そんな中から、昨年印象に残ったCMとヒロインたちを記録しておこうと思います。まずは2017年の「上半期」編です。


<永野芽郁さん>
アルペン  青い冬、はじまる「バイト先にて」


「スキー場=恋の舞台」というイメージ(あくまでもイメージです)が一般化したのは、いつのことだろう。まず、1987年に公開された、原田知世さん主演の映画『私をスキーに連れてって』の存在は外せないですね。

そして、この映画以上に影響を与えたのが、89年に登場したアルペンのCMです。特に93年のCMソング、広瀬香美さんが歌った『ロマンスの神様』は衝撃的でした。

あれから四半世紀近くが過ぎた冬。懐かしいあの曲を口ずさみながら、スキー場でバイトをしているのは永野芽郁(めい)さんです。

そこへ突然、90年代スタイルのおじさん(「ホリイのずんずん調査」で知られるコラムニスト・堀井憲一郎さん)が現われ、「スキーに連れてってあげる」と誘います。芽郁さん、ソッコーで「やだ!」と返事。実はこれ、一瞬の幻想だったというのがオチでした。

時代は変わっても、スキー場が持つ非日常的ワクワク感は変わらないと思います。この冬も、あちこちで “ゲレンデがとけるほどの恋”が誕生しているかもしれません。

そういえば、芽郁さんはその後、来年春からのNHK朝ドラのヒロインに決まりました。勝負の年になるわけで、ぜひ頑張ってほしいものです。


<石田ゆり子さん>
キリンチューハイ ビターズ 「あなたの顔」


昨年10~12月に放送され、社会現象にもなったヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)。新垣結衣さん、星野源さんはもちろんですが、石田ゆり子さんが演じた“ヒロインの伯母” 百合さんも人気がありましたよね。

仕事のできるキャリアウーマンにして独身。部下を率いるしっかり者が、ふとした瞬間に見せる素顔や本音がとてもチャーミングでした。

しかし、石田さんの女優としての凄さはそれだけではありません。かつて『さよなら私』(NHK、2014年)では、高校時代からの親友(永作博美さん)の夫(藤木直人さん)と不倫関係。

また『コントレール~罪と恋~』(同、16年)は、過って自分の夫を死なせた男(井浦新さん)と禁断の恋に落ちる、切ないラブストーリーでした。どちらも石田さんが併せ持つ清純とエロスに驚かされた作品です。

たとえば、そんな石田さんが目の前にいて、グラスに“大人のビターチューハイ”を注いでくれる。しかも「ゆるんで、いいよ」「もっと、ゆるも」なんて言われたら・・・そりゃもう、乾杯どころか完敗でしょう。


<杉咲花さん>
リクルートSUUMO  最後の上映会「夢」


学生時代に暮らしたアパートは、渋谷のNHK放送センターのすぐ近くにありました。ガス・水道・トイレがすべて共同の四畳半で、家賃は1万3千円。70年代半ばとはいえ格安だったと思います。

渋谷駅まで徒歩10分という便利な場所だったせいか、近所のアパートには寺山修司さんも住んでいました。駅に行く途中の書店「放文社」でよく立ち読みをしていた、寺山さんの大きな背中が懐かしい。

このCMで、杉咲花さんが演じる女性が4年間を過ごした部屋は、明るくて住み心地も良さそうです。保育士を目指して頑張る姿を見守ってくれた部屋。大切な夢を応援してくれた部屋。杉咲さんの心のスクリーンに映し出される回想を眺めながら、自分が青春から遥か遠くまで来たことを思って、少しだけ感傷的になりました。

しかし、最後のシーンで元気が出ました。杉咲さんが、荷物を送り出して空っぽになった部屋に向かって深々とお辞儀をするのです。渋谷の四畳半を出る時、やはり同じように頭を下げたことを思い出しました。その部屋を選んだのは偶然かもしれませんが、住む人の気持ちで必然に変わるのかもしれません。