週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
コロナがあぶりだす無責任な行動、言説
適菜収『コロナと無責任な人たち』
祥伝社新書 946円
もう1年半近く続いているコロナ禍。危機も日常化すると感覚が麻痺してくる。それにしても、なぜこんなことになったのか。この状況をどう捉えたらいいのか。立ち止まって考える時、刺激は強いが参考になる一冊として、適菜収『コロナと無責任な人たち』がある。
昨年3月以降の新型コロナ感染の拡大は人災であり、この国の危機管理の脆弱性が招いたと著者は言う。特に、平時はもちろん緊急時にも「その場しのぎの嘘」をつく、安倍晋三という政治家が国のトップにいたことが不幸だったと。
たとえば自粛を要請する一方で、ブレーキとアクセルの踏み間違いのような「Go Toキャンペーン」に充てた、1兆6794億円の税金。医療体制の拡充やワクチン開発に投入していたらと思わずにいられない。しかも次に首相となった菅義偉は、失政の安倍政権を支えてきた人物だ。「森友問題」の公文書改竄事件も、「桜を見る会」の権力私物化も、事実隠蔽で乗り切ろうとしてきた。国家や国民を軽視する姿勢はコロナ対策でも一貫している。
この2人をはじめ、著者は「無責任な人たち」とその蛮行を挙げていく。「ファクト」を無視する小池百合子東京都知事。「命の選択」を安易に口にする吉村洋文大阪府知事などだ。
さらに、医師でも感染症の専門家でもない人たちが展開する、無責任な言説にも釘を刺す。著者が指摘する「ナショナリズムの衰退と国家の機能不全」の実態と危うさが見えてくる。
(週刊新潮 2021年6月10日号)