碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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2021年06月09日 | 気まぐれ写真館

朝日新聞 2021.06.09


『大豆田とわ子と三人の元夫』で、脚本の坂元裕二が「仕掛けたこと」

2021年06月09日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

『大豆田とわ子と三人の元夫』で、

脚本の坂元裕二が「仕掛けたこと」

 

『大豆田とわ子と三人の元夫』(関西テレビ制作・フジテレビ系)は、今期最もクセになる、不思議なテイストのドラマです。
 
何しろ、人から「どんな話?」と聞かれて、「こんな筋だよ」と即答するのが難しいのですから。
 
「大豆田(おおまめだ)」という珍しい姓を持つ建設会社社長、とわ子(松たか子)。
 
平凡な姓の田中(松田龍平)、佐藤(角田晃広)、中村(岡田将生)の3人が、元夫です。
 
彼らは離婚した後も、とわ子が気になって仕方ありません。
 
とはいえ、元妻の争奪戦を繰り広げるわけではない。
 
とわ子を軸とした4人の「微妙な関係」と「日常」が、ゆっくりとユーモラスに描かれていきます。
 
それでいて、一瞬も目を離すことが出来ません。
 
いや正確には、どんなセリフも聞き逃すことが出来ないのです。
 
なぜなら、このドラマにおいて、ストーリーよりも大事なのは、登場人物たちの「やりとり=関係性」と、彼らが口にする「セリフ」だからです。
 
「関係性」と「セリフ」で構築されるドラマの試み。
 
脚本の坂元裕二さんが仕掛けた、<脱ストーリー>という実験作と言ってもいい。
 
松たか子主演(共演者に松田龍平も)の坂元作品で、2017年に放送された『カルテット』(TBS系)以上に、舞台劇のような言葉の応酬はスリリングで、行間を読む面白さがあります。
 
とわ子が、亡くなった親友・綿来かごめ(市川実日子、好演!)に、元夫との関係が「面倒くさい」と愚痴ったことがありました。
 
かごめは、言います。
 
「面倒くさいって気持ちは好きと嫌いの間にあって、どっちかっていうと好きに近い」
 
また、皮肉ばかり口にする中村を、田中が諭(さと)しました。
 
「人から嫌われることが怖くなくなったら、怖い人になりますよ」
 
懲りずに勝手な持論を展開する中村。とわ子も責めます。
 
「私が言ってないことは分かった気になるくせに、私が言ったことは分からないフリするよね」
 
とわ子には、当然、3回の離婚経験があります。
 
そのことを指して「かわいそうな女性」で、「人生に失敗している」と決めつける、取引先の社長がいました。
 
この時の、とわ子の反論がふるっています。
 
「人生に失敗はあったって、失敗した人生なんてないと思います!」
 
ドラマ全体が、まるでアフォリズム(警句・格言)を集めた一冊の本のようです。
 
個々のセリフが持つニュアンスを、絶妙な間と表情で伝える俳優陣にも拍手でしょう。
 
さらに、恋愛や結婚、そして離婚に関する一般的イメージや既成概念を、さり気なく揺さぶっていることも、このドラマの特色です。
 
たとえば、かごめは「恋愛になっちゃうの、残念」と言っていました。
 
互いを好ましく思う男女に、恋愛や結婚以外の繋がり方があっていい。
 
同時に、一人でいることを幸福と感じる生き方もある。それぞれ、もっと自由に、自分らしさを大切にして生きてみたら? 
 
かごめは、そう言いたかったのではないでしょうか。
 
ドラマは終盤に入って、とわ子に新たな出会いがありました。オダギリジョーさんが演じる外資系ファンドの男です。
 
よもや4回目の結婚でハッピーエンドなんてことはないと思いますが、最後の最後まで、見る側の予想など綺麗に裏切って欲しい。そう願っています。