メディアをオワコンにするのは
読者や視聴者ではない
松本 創『地方メディアの逆襲』
ちくま新書 946円
近年、新聞やテレビは「オールドメディア」などと呼ばれたりする。それどころか、「オワコン(終わったコンテンツ)」のレッテルを貼られることも多い。だが、本当にそうなのか。松本創『地方メディアの逆襲』は一つの答えである。
本書には地方の新聞3紙とテレビ3局が登場する。ミサイルシステム「イージス・アショア」計画に迫る秋田魁新報。京都アニメーション放火殺人事件で「被害者報道」のあり方を再考した京都新聞。「福祉利権」や「裁判所神話」に挑む瀬戸内海放送。そして、テレビ自体をドキュメンタリーで問う東海テレビなどだ。
こうした活動は地方メディアだから出来るのか。それとも地方メディアにしか出来ないのか。仮に全国紙や東京キー局の人間が本書を読んで、内心忸怩たるものがあるなら、そこに救いや希望があるはずだ。
著者はマスメディア不信を招いた原因として、市民感覚からの乖離を挙げる。特に事象に対する「違和感」が重要だ。秋田魁新報も瀬戸内海放送も、取材者たちを突き動かしているのは「なぜなんだ」「これって、おかしくないか」という真っ当な疑問だった。
業界や社内だけで通用する「常識」に流されない人材がいること。また彼らを支える組織であることが、信頼されるメディアの条件となる。新聞やテレビをオワコンにするのは読者や視聴者ではない。メディアが、自分たちに何が可能かを徹底的に考え、実践することを放棄した時なのだ。
(週刊新潮 2022.01.22号)